Z・α世代に響く新たなコミュニケーション。テキスト通話アプリ「Jiffcy」の可能性|Jiffcy ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ

2025年、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は、電話をかけるような感覚で声を出さずにコミュニケーションができるテキスト通話アプリ「Jiffcy」を運営する株式会社Jiffcyへの出資を発表しました。
NDVの三好は「元々電話というコミュニケーションを扱ってきたドコモには、ある種の後悔がある」と語ります。その経験が、Jiffcyのような新しいコミュニケーションサービスへの投資を後押ししているようです。
Jiffcy社代表の西村成城さんと三好に、Jiffcyの特徴やその可能性について、お話を伺いました。

自分が欲しいと感じたから開発したテキスト通話
── 最初に、Jiffcyについて教えてください。
Jiffcyは通話感覚で使えるテキスト通話アプリです。友達や家族、恋人と利用する実名制のSNSで、特徴は電話のように相手を呼び出し、相手が応じると入力した文字が1文字ずつ変換前の状態でも表示される「リアルタイムトーク」。Z世代やα世代を中心に、利用者を増やしています。
西村(Jiffcy):
リアルタイムトークをしていると、自分の端末に相手が入力した文字が1文字ずつ表示されるため、お互いが相づちを打っているような感覚になり、自分と相手の一体感が高まるんです。これによって、電話のように、切りのいいところまで話すという性質が出てきます。
「電話のように」と説明しましたが、Jiffcyの使えるシーンは実はもっと多様です。例えば、電話は電車の中では出られませんが、Jiffcyなら応答できます。家にいるときでも、家族が近くにいると電話に出づらいこともありますが、Jiffcyなら応答可能です。つまり、電話とJiffcyの差は「電話がかかってきたことには気づいているけど、応答しなかった」部分になります。
こう説明すると「LINEでいいのでは?」と感じる方も少なくないでしょう。でもLINEは、基本的にはいつ返信してもいいものですよね。また、何か込み入った話をする、なかなか話が進まない、今すぐ返事をもらいたいといった際、私たちはこれまで音声通話を選んできました。そんな場合でも将来的には、LINEではなくJiffcyが選ばれるようになると考えています。
また難聴の方にとって電話は難しいですが、Jiffcyなら利用可能です。将来的には、災害後の避難所などでも役立てると考えています。

株式会社Jiffcy 代表取締役CEO
学生時代は親の仕事の関係で海外や日本各地で生活を送る。
2016年(当時19歳)から複数の事業を展開。2018年に「人類の可能性を解放する」企業、株式会社穴熊(現 株式会社Jiffcy)を設立し、代表取締役に就任。
── 西村さんは学生時代から、様々なアプリを開発していたそうですね。
西村(Jiffcy):
IQテストから脱出ゲームまで、色んなアプリを開発しました。「これを作ったら面白そうだな」「これなら簡単に作れそう」と感じたものを、思いつくままに作っていましたね。最もダウンロードされたのはメモ帳アプリです。
── Jiffcyはその延長で開発されたのでしょうか。
西村(Jiffcy):
いいえ。大学を卒業するまでは、ひたすら色んなサービスを楽しみながら開発していました。ただ、だんだんと「この延長線上に何があるんだろう」と思うようになったんです。「個人でアプリをたくさん開発しているエンジニア」は、「世界中の人が使うアプリを作る」という自分の理想と違いました。
そんなときに知ったのが、スタートアップという存在です。自分が作ったサービスを世界中に届けるならスタートアップの方がいい。そう考えて、方向転換しました。
とはいえ、最初に資金調達をして開発したSNSはニーズがなくて失敗。その後もウェブサービスやアプリをいくつか開発しましたが、世界中の人に使われる未来は見えませんでした。
そんなときにふと開発してみたのがJiffcyです。自分が欲しいと思ったサービスで、実際、自分自身も毎日使っています。音声通話を置き換えられれば世界中の人に使われる可能性もある。2016年頃から個人事業主として色々なサービスを開発している中で、初めて自分のビジョンとサービスが完全に一致する感覚がありました。それで今はJiffcyに全力を注いでいます。

── Jiffcyを着想したきっかけを教えてください。
西村(Jiffcy):
元々、音声通話にハードルの高さを感じていました。一方でLINEやメッセージングアプリは「会話」ではなく、あくまでメールの延長線上。それで「テキストで会話する」という体験があってもいいんじゃないかと思ったんです。
とはいえ、最初から世界中の人に使われるという確信があったわけではありません。ただ「テキストなのに盛り上がる」サービスを開発したかっただけなんです。実際、エンタメとして面白がってはもらえたものの、リリース当初はあまり使われていませんでした。
粛々と開発している中である日、電話のように相手を呼び出す機能をつけてみたんです。そうすると急激に実用性が高まり、ユーザーの方々から、「これはいいね」「すごく便利」と、それまでにないポジティブな反応が届き始めました。ヘビーユーザーの間では「Jiffcyじゃないとダメだ」というシーンが増えたんです。
その中にあった反応の一つが「声を出さずに電話しているみたい」というものでした。それを聞いた時に初めて「Jiffcyは音声通話の置き換えになり得るんだ」という発想に至ったんです。意図せずして、人生をかけて取り組める理想的なテーマに辿りついた瞬間でした。
ドコモの後悔が新サービスを支援させる
── Jiffcyの利用者はZ・α世代が中心とのことでしたが、三好さんは最初に聞いたとき、どんな印象でしたか?
三好(NDV):
年齢を重ねると、自分が使わない、または理解しにくいサービスは増えてくるものです。だからといって、頭ごなしにそれを否定してはいけません。まずは最も正確な数字の確認からするべきです。その点Jiffcyは、しっかりユーザー数を伸ばしていました。
とはいえ、ドコモはコミュニケーションの会社です。Jiffcyのサービス概要がわかりやすいこともあって、最初に聞いたときから「なるほどね」と感じたのを覚えています。

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment Managing Director
約20年間VC業界に在籍し、30社近くのベンチャー投資を実行。
IPOやM&Aによるexit等豊富なトラックレコードを誇りつつ、事業連携を伴った投資も得意とする。
その後、イオンリテールの新規事業・Eコマース事業の責任者として事業改革を行い、2023年6月よりNTTドコモ・ベンチャーズのManaging Directorに就任
三好(NDV):
ドコモは電話というコミュニケーションを扱ってきた会社ではあるものの、「電話でしていたコミュニケーションを文字にする」という発想はありませんでした。でも言われてみれば確かに、テキスト通話は若者を中心に需要はあるように思えます。ドコモの経営幹部にもJiffcyの話をしたら、すぐに理解してくれました。
ドコモには「自分たちがLINEを作らなければいけなかった」という、ある種の後悔があるんです。できなかった理由はテクノロジーの問題ではなく、レギュレーションや安全性を気にしすぎる企業体質。それでは新しいサービスは生まれません。
そうは言っても、新しいサービスが必要なことは理解しています。幹部にしても「ドコモはコミュニケーション分野の会社であり、新しいサービスには興味を抱き、支援しなければいけない」という共通認識がある。Jiffcyは正に、そのひとつだったというわけですね。
── Jiffcyのどこに可能性を見出したのでしょうか。
三好(NDV):
Jiffcyは今までにない新しいサービスですが、ちゃんとユーザーに支持されているのが素晴らしいですよね。今はまだアーリーアダプター層には届いていない程度の普及度だと認識していますが、そこに到達するのも時間の問題でしょう。マス層にまで浸透するかはまだわかりませんが、可能性は十分にあると思っています。
西村(Jiffcy):
Jiffcyがメディアに取り上げられた際の反応を見ていると、「自分は文字入力のスピードが遅いから使いにくそう」という感想がよく目につきます。でも実際に使ってもらえるとわかるのですが、Jiffcyは文字入力が遅くても関係ありません。早かろうが遅かろうが、相手はそれを自然に感じるからです。考えながら打っているから、途中経過もわかりますしね。
そう考えると、アーリーアダプター層を超えて、マス層に届けるためには、実際に体験してもらうことがハードルになると考えています。インフラとして広げるなら、体験コーナーみたいなものを設けて、無理やりにでも使ってもらうような仕掛けが必要かもしれません。
現実的には、あるコミュニティでJiffcyを使っている人が多数派になるという状況を作れるかがポイントになるはずです。そうなれば「使っている人が多いから」と、新たに使い始める人も増えていくでしょう。まずはその状況を生むべく、現在はひたすらユーザーを増やしている段階です。

── Jiffcyとドコモは、どんな共創プランを描いているのでしょうか。
三好(NDV):
現在具体的な取り組みを進めているわけではありませんが、「将来的にはこんなことをしたいよね」という話は出ています。ドコモが販売する端末にJiffcyを標準搭載したり、広告主を紹介したりといった案が分かりやすいですね。
西村(Jiffcy):
Jiffcyは現時点ではマネタイズしていませんが、将来的にはユーザー課金と広告による収益化を検討しています。広告プランは、会話の内容やキーワードに応じたエフェクトや広告が出てくる、といったものです。「クリスマス」と打ったらサンタクロースが出てくるイメージですね。会話に関連する商材の広告が表示されれば、Jiffcyなら「会話しているお互いが同時に同じ広告を見るので話が盛り上がる」という現象を生み出せると考えています。
Jiffcyを利用するのは、家族や恋人、友達など、仲の良い人同士。そのため、映画の話題が出てきたときに映画の広告が出てくれば「一緒に観に行こうよ」とアクションを取るようになると思います。
Jiffcy社が目指すのはコミュニケーションの効率化
── Jiffcyの今後の展開を教えてください。
西村(Jiffcy):
まずはJiffcyというサービスについて。Jiffcyは「音声通話をテキストにする」という意味では新しいと思いますが、それだけではコミュニケーション全体の一部しか担えていないと考えています。
またJiffcyは、テキスト通話だけでなく、これまで手が届かなかったコミュニケーションの空白地帯にも挑戦しています。つまり、自分が伝えたいことを、加工されずに、誤解なく、相手に伝えることのハードルを低くしたいんです。そのために必要な新しい機能をどんどん開発していきたいですね。

西村(Jiffcy):
次に会社として。Jiffcy社は、人類の文明を発展させ、人類に貢献したいと考えています。
人類は長い年月をかけて知識を蓄積してきました。この知識を元に、色んなものが作られています。「知識を蓄積するために人類はいる」と考えると、自分としてはしっくりきます。知識の蓄積を効率化することは、人類への貢献に繋がるはずです。
その意味では、人類全体としては到達しているものの、個々人が学び直さなければならないという状況は、時間の無駄とも言えます。そこでJiffcy社としては、知識の収集や蓄積をアップデートする、つまりコミュニケーションを効率化して、ひいては寿命の中で新しい発見ができる期間を延ばしていきたいと考えてるんです。
具体的に、やりたい事業は4つあります。1つ目は、今扱っているコミュニケーションです。2つ目に、知識を整理するためのAI。3つ目に、貯めた知識をちゃんと保護するためのブロックチェーン。最後に、地球に隕石が落ちても知識がなくならないようにするための、知識の宇宙でのバックアップです。現在はこの第一段階に取り組んでいるという認識でいます。AIを活かしたりしながら、日常に潜む重要なインサイトを発掘して整理していきたいですね。
まずはJiffcyに集中して、アーリーアダプター以降の層にもサービスを普及できるように頑張っていきたいと思います。
三好(NDV):
ドコモとしても応援しています。頑張っていきましょう。
西村(Jiffcy):
はい。よろしくお願いします。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)