中堅・中小企業の法務アクセス格差を解消するAI契約書レビューサービス「LeCHECK」。販売や生成AIでNTTグループと共創へ|リセ ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は2025年11月、高精度AI搭載の契約書レビューサービス「LeCHECK(リチェック)」を提供する株式会社リセ(以下「リセ」)への投資を発表しました。
多くのリーガルテックサービスが大企業をメインターゲットとする中、LeCHECKの顧客は中堅・中小企業が中心。「その顧客戦略こそが今回の出資に繋がった」とNDVの小竹有馬は語ります。
LeCHECKのサービス概要やその開発背景、リセとNTTグループの共創について、リセ代表の藤田美樹さんと、小竹に話を聞きました。

中堅・中小企業向けのAI契約書レビューサービス
藤田(リセ):
リセが主力事業として開発しているのは、AI契約書レビューサービス「LeCHECK」です。30名以上の弁護士が監修し、派遣契約や不動産契約など、多岐にわたる日常的な契約に対応しています。
LeCHECKが搭載する高精度なAIは、契約書に潜むリスク箇所を詳細に分析し、専門知識がない方でも理解しやすい解説文や参考条文を提示。最新の法改正にも対応していて、専門弁護士が作成した契約書のひな型も提供しています。

株式会社リセ 代表取締役社長、弁護士(日本・米国NY州)
東京大学法学部卒業、Duke大学ロースクール卒業(LLM)、司法試験合格、司法修習を経て、2001年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。
米国留学、NY州法律事務所勤務を経て2013年パートナー就任。 2018年退所、株式会社リセ設立。
藤田(リセ):
顧問弁護士がいる会社もあるかと思いますが、弁護士にも専門分野があり、すべての相談に即座に自信をもって答えられるわけではありません。
ですがLeCHECKをご利用いただければ、それぞれの分野の専門家の知見を、弁護士よりも低コストで利用できます。例えば、派遣契約が必要な際には派遣に詳しい弁護士の、オフィスを借りる場合には不動産に強い弁護士のノウハウを得られる、というイメージですね。
── LeCHECKの顧客にはどのような企業が多いのでしょうか。
藤田(リセ):
LeCHECKはリリース当初から「中堅・中小企業向け」と打ち出しており、実際、現在もその層が顧客の中心を占めています。従業員1,000名以上の大企業は、全体の約2割です。
── 顧問弁護士に何でも頼んでいた中堅・中小企業の状況が変わりそうです。
藤田(リセ):
その通りなのですが、そもそも多くの会社では、顧問弁護士に法律相談すらしていないケースも多いのです。顧問契約の範囲は「その場ですぐに答えられる質問への対応」や「数時間以内で対応可能な業務」に限定されている場合が少なくありません。企業は何か揉め事が起きたときなど、有事の際にだけ顧問弁護士に連絡を取るケースも多いのです。そうすると、特に中堅・中小企業では、専任の法務担当者ではなく、営業や管理部門、経営者自身が日常的な契約書の確認業務を担うケースが多くなります。
その点、LeCHECKが想定する顧客は、専門的な支援をまったく受けてこなかった企業です。弁護士の仕事を代替しているというよりは、これまでマンパワーでは対応できていなかった部分をテクノロジーで対応しています。
── 大企業でも似たような構図があるのでしょうか。
藤田(リセ):
LeCHECKは大企業でももちろん活用可能です。会社が大きくなれば取引の数も増え、契約書の数も膨大になります。大企業だと社内50名の法務担当者の内、25名が契約書担当ということも珍しくありません。LeCHECKを使っていただければ、そういった方々の時間短縮に繋がると考えています。お客さまのアンケートでは、3〜5割程度時間が削減されたという回答が多いですね。時間短縮だけではなく、レビューのクオリティが上がったとのお声もいただいています。
起業のきっかけと後悔
小竹(NDV):
「LeCHECKのメイン顧客は中堅・中小企業」という点が、NDVからの投資に繋がった大きな要因となります。

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ
Investment & Business Development Director
2023年7月よりNTTドコモ・ベンチャーズに参画。AI、ロボティクス、Web 3、SaaSなど幅広い投資を担当。2024年からは東南アジア投資プロジェクトを立ち上げ、NTT初の海外におけるスタートアップ協業推進プログラム「NTT Startup Challenge」を伴走。もっか、Singlishの習得を目指している。
趣味はTM NETWORKとヘビーメタル。及び四天王プロレス
ペンシルバニア大学ロースクールLL.M. class of 2014
Wharton Business & Law Certificate, 2014
小竹(NDV):
リーガルテックは弁護士事務所やインハウスロイヤー向けのDXツールとしてアメリカを中心に発展し、近年日本でもスタートアップが増えてきました。
私はニューヨーク州の弁護士資格をもっていることもあり、AI契約レビューサービスをはじめ、様々なリーガルテックサービスの話をいただく機会が少なくありません。とはいえユーザー目線で見ると、まだまだこれからのサービスが多い印象があります。自分で契約書レビューができたりドラフトが作れたりする立場だと、どうしても不十分な点に目がついてしまうのです。
それなら、なぜリセに投資したのか。LeCHECKのアウトプットがシンプルで自分好みであったという事情は確かにあります。しかし、それ以上に心を惹かれたのは、多くのリーガルテックサービスが大企業の法務DXを目指す中、リセは法務部がないような中堅・中小企業のDXを目指しているという点です。つまり同社は、日本における法務サービスへのアクセス格差を解消しようとしており、そのミッションに感銘を受けました。
法務の専門家でない方が契約書を作成し、不利な契約を押し付けられてしまうという話は枚挙に暇がありません。実際、私も企業内法務時代に、契約の相手側から著しく不合理な契約書案を受けるケースが多々ありました。NTTのように法務部が強い会社であれば、そのような契約については然るべき対応も可能です。しかし世の中には法務部が存在しない企業も少なくありません。その場合でも、外部の弁護士などから適切なサポートを受けられればよいのですが、そのような企業は予算も厳しいためそれも難しい。実際、弁護士を使ったことがないという会社も多く存在します。その結果、「こんな不利な内容で締結してよいの?」と感じる契約書案であっても、何も知らずに締結してしまっているというケースは少なくないでしょう。
日本は米国のような訴訟社会ではないため、不合理な契約に基づくリスクが顕在化しても、裁判にまで至り、公開されることはなかなかありません。しかし実際は「契約に書いてあるから仕方ない」「そのような契約を知らずに結んでしまった自分が悪い」と弱い立場の人たちが泣き寝入りしているケースがたくさんあるはずです。
私は、弁護士とは本来弱い立場の人たちの味方であると思っています。しかし、実際の社会ではそのような弁護士のサービスがお金をもっている大企業に独占されてしまっている。このような大きな社会課題を解決しようとしているのがLeCHECKというサービスで、これは非常に社会的意義があることだと感じています。
NTTドコモ・ベンチャーズはミッションで「世界の景色を変える」と謳っていますが、そこにも繋がると感じ、リセへ投資しました。

藤田(リセ):
私は法律事務所勤務時代、特に中小企業からのご相談いただいている際に「どうしてそんな契約をしてしまったのか」と感じるケースは決して少なくありませんでした。
とはいえ、中小企業ならそもそも法律や契約について詳しい方が社内にいないことも多いでしょうから、ちゃんとチェックできないというのは無理もありません。でも、真面目に事業をしている方々がこんな目に遭うことに悔しさを感じました。
かといって「じゃあ次からは私が契約書を確認します」と言って、かなり値引きをして請求書を出しても、先方からするとまだ桁違いに高いんです。マンパワーの限界を感じる瞬間でした。

藤田(リセ):
そんな思いを抱いていたある日、海外のリーガルテック企業からプレゼンを受ける機会が訪れました。それを聞いて、法務DXの可能性を感じたのです。この時点で私は18年近く弁護士として仕事をしていて、目の前のお客さまに対してサービスを提供するやりがいを感じていました。一方で、スタートアップとしてリーガルテックサービスを開発すれば、社会を変えられるように思えたのです。それまで自分がスタートアップを立ち上げるなんて考えたこともなかったのですが、急にやりたくなってしまいました。
── それで起業されたのですね。
藤田(リセ):
実は当時、双子が1歳で家庭が忙しく、起業はもうちょっと先延ばししようかなと悩んでいたんです。でもスタートアップ業界の方に相談すると「やろうと思った時に行動しなかったら絶対にやらない」と言われ、半年後に退職しました。
それでも後悔することになります。スタートアップはやはりスピード感が大事なので、半年は時間をかけすぎました。もっと早く辞めるべきでしたね。
── 法務サービスは「だいたい合っていればいい」という類のものではないので、一般的なIT系のスタートアップよりもMVPの難易度が高いように思えます。起業初期は大変だったのではないでしょうか。
藤田(リセ):
そうですね。最初の2年は本当に苦労しましたし、我々が開発でもたついている間に、競合他社はすごい勢いで成長していました。
弁護士として「間違ってはいけない」と叩き込まれ「中途半端なものは出せない」という思いがある一方で、どうしてもサービスの精度が高まらない。間違いを少なくしなければいけないし、仮に間違ったとしてもお客さまが困らないようにするにはどうしたらいいか、試行錯誤した2年間でした。
何回も倒産しそうになって、客観的には上手くいっていなかったのは事実です。とはいえ10名にも満たないメンバーが、良いサービスを作ろうと同じ方向を向いているのは、主観的には充実した日々でした。
LeCHECKの代理店販売から共創へ繋げる
── 両社の出会いを教えてください。
小竹(NDV):
スタートアップと大企業をマッチングするあるイベントで出会いました。

小竹(NDV):
先述したように、私は「リーガルテックはロイヤー目線ではまだまだこれから」だと考えていて、リセの話を聞いたときも、そのマインドセットのままでいて、そのときは「トラクションがすごいな」という印象を受けた程度でした。しかし、その後ちょうど同じタイミングで、リセの社外取締役も務めているあるベンチャーキャピタリストから、リセを改めて紹介いただいたんです。彼に「リセの何が特にすごいのか」を尋ねたら「経営者」だと言います。
スタートアップ投資において、もちろん経営者は重要な要素です。ですがそのキャピタリストは、普段は数字やビジネスを多く語る印象のある方で、その方が「経営者である藤田さんが良い」「会う度に投資して良かったと思っている」と言うものですから、さらに気になりました。
それで改めてリセについて調べると、LeCHECKは大企業のDXを目指すサービスではなく、法務アクセス格差を解消するためのサービスであり、競合他社とは似て非なるものだと理解したんです。この時、私の中でリーガルテックそのものに対する考え方が180度変わりました。私にとってこれはとんでもない思考の変革であり、それが投資に繋がりました。
── リセは他社との協業にも注力していますよね。
藤田(リセ):
繰り返しになりますが、リセのターゲットは中堅・中小企業なので、自社だけでサービスを普及するには限界があります。それもあってリセでは初期から事業会社に出資してもらい、協業にも力を入れてきました。
とはいえ提携というものは、必ずしもこちらのやりたいことと相手の希望が一致するとは限らず、また合意できた場合でもスムーズに進行するまでには時間がかかるものです。ですが最近は上手く回り始めています。例えば、弁護士ドットコム株式会社や株式会社マネーフォワードにはLeCHECKのOEM提供を行いました。Sansan株式会社とは資本業務提携を締結し、販売パートナーシップを構築しています。
── リセとNDV・NTTグループがどういう共創プランを描いているか、教えてください。
小竹(NDV):
NDVが目指す共創の理想形は、スタートアップのアセットをNTTのビジネスに組み込んで事業を拡大することです。

小竹(NDV):
これは会社としてではなく個人的な考えですが「社会課題解決に繋がるスタートアップサービスの販路を確保する」こともNDV・NTTグループの役割だと考えています。
リセは現在4,500社に採用されていますが、その多くは直販です。ただ社員だけで販売していると、どうしても販売先は首都圏に集中してしまいます。他方でNTTは全国に販路をもっていて、スタートアップから見ると、販路のインフラでもあるわけです。これを上手く使って、素晴らしいサービスを世の中に広めていく。これも我々の重要なミッションだと考えています。
というわけで、NTTとしても今後、LeCHECKの販売を支援していく予定です。この共創を起点に、LeCHECKを全国に効率的に届けていきたいですね。
── 中長期的にはどのような共創を考えているのでしょうか。
藤田(リセ):
リセが持つノウハウは、簡潔に言えば「弁護士が契約書を見る際のポイント」だと言えます。これは今まで、あまり言語化されてこなかったものです。
これからリーガルテックにも生成AIの波が押し寄せるにあたって、この言語化されていないノウハウを活かすためには、生成AI関連の取り組みをしている企業とのタッグが重要だと考えました。販路に加え、生成AI関連でもリセと相性の良いNDVにご出資いただいたので、良い取り組みに繋げていきたいと考えています。
小竹(NDV):
リーガルテック系のサービスは、まだルールベースで対応しているサービスがほとんどです。ただしそれも数年待たずにChatGPTのような生成AIベースの世界になっていくでしょう。
生成AIについて、NTTは「tsuzumi」という日本語の大規模言語モデルを開発しているので、これから一緒に発展させられれば嬉しいです。アプリケーションの中に生成AIを組み込むための検討は、NTTだけでなくNTTデータやNTTドコモなど、グループ各社が取り組んでいますが、リーガルテックは重点領域の一つとなっています。是非力を貸してください。
藤田(リセ):
販売面も生成AI関連も、ぜひご一緒させてください。こちらこそよろしくお願いします。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)