CVCの出資から生まれたドコモ・NTT西との共創。オンラインたまり場とロボット、2つの事例を語る|NTT DOCOMO VENTURES DAY 2026レポート③

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は、2026年2月19日、東京・大手町にてNTT DOCOMO VENTURES DAY 2026を開催しました。
本イベントは、NDVが投資する国内外の注目スタートアップ企業やNTTグループ各社が一堂に会する催しです。スタートアップ企業とNTTグループをマッチングし、共創のきっかけを創出することを目的として毎年開催しており、今回が10回目の開催となっています。
本記事では、NDVの投資経由で生まれた2つの共創事例についての鼎談(ていだん)の様子を、一部抜粋してお届けします。
業務DXロボット「ugo」 × NTT西日本の共創事例
最初に紹介するセッションは「スタートアップと大企業とのオープンイノベーション CVC投資から2年、真のビジネスインパクトを生み出す協業はどのようにして生まれたのか」。登壇していただいたのは以下の方々です。
・ugo株式会社 代表取締役CEO 松井 健
・NTTビジネスソリューションズ株式会社(※) バリューデザイン部・IoTビジネス担当部長 原 勲
・株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment & Business Development Director 小竹 有馬
(※)NTTビジネスソリューションズ株式会社はNTT西日本株式会社の子会社で、ビジネスユーザーに対する情報通信システムの提案などを業とする会社です。以下「NTT西日本」と表記します。

■NTT西日本にOEM提供したロボプラットフォームが清掃ロボに採用へ
小竹(NDV):
このセッションではugoの松井さんと、NTT西日本で共創を担当した原に、お話を聞いていきます。最初に、ugoについて簡単に教えてください。
松井(ugo):
警備ロボットを開発するスタートアップ、ugo株式会社の松井です。よろしくお願いします。
「ugo」は、遠隔操作とAIによる自動制御を融合した業務DXロボットです。警備・点検・案内など、現場ごとに異なる設備や業務に柔軟に対応できるようになっています。

小竹(NDV):
海外で名の知れているロボットと比較すると、ugoには足がないのが特徴ですね。
松井(ugo):
我々の価値観の一つに「社会実装ファースト」が挙げられます。一般に、ロボットが腕や足を制御しながらバランスをとるのは難しく、それに対応していては時間がかかるし、費用もかかってしまう。
一方で、足をカート状にすれば安定するし、社会実装までの時間を短縮できます。ユースケースとしても、足がないと困るというものは少なく、それでまずは上半身のみのロボットの開発に集中しているんです。
原(NTT西日本):
新規事業の目的がPoC(実証実験)になってしまっているケースは珍しくありません。しかし本来はカスタマーファーストであるべき。ugoの考え方には共感します。
小竹(NDV):
ugo社とNTT西日本は2022年に共創の検討を開始しています。その約1年後、NDVからugo社に投資を実行しました。
2025年には、同社がNTT西日本にOEM提供する「ugo Platform」をベースにした「AIロボティクスプラットフォーム」が、アイリスオーヤマ株式会社の清掃ロボットに導入されています。
まだ道半ばではありますが、今回の事例は「これぞオープンイノベーション」と言える案件となっていますね。NTTグループも色々なオープンイノベーションを仕掛けてきましたが、これは非常に綺麗な成功事例です。
松井(ugo):
ありがとうございます。ロボットスタートアップ単独での大企業へのサービス導入は、簡単ではありません。NTT西日本と共創したからこそ、導入につながったと思います。

原(NTT西日本):
NTTグループのCVCがugo社に出資するというリスクをとっており、本気で同社の技術を信じているという事実は、アイリスオーヤマ社と議論する上でも、有効に働いたと思います。
松井(ugo):
我々はディープテックの会社であり、研究開発の成果を世に出すには時間がかかります。でも、NTTのような大企業と組むにはまず、成果を出さないといけないというジレンマがあるんです。この状況を乗り越えるためにも、まずCVCに出資をしてもらえるというのは、スタートアップとしては非常にありがたかったと感じています。
小竹(NDV):
まずCVCであるNDVがリスクマネーを投下し、スタートアップと信頼関係を築いて、PoCを実行する。提携の成果が出てきた際には、NTTグループの事業会社自らが出資をする。最終的にNTTグループになくてはならない会社となってくれたら、NTTグループがM&Aをする。これが理想的なCVCが仕掛けるオープンイノベーション・ジャーニーだと思っています。
■「新規」事業は上手くいかない
小竹(NDV):
共創をしていく中で、スタートアップと大企業の違いを感じることはありましたか?
松井(ugo):
スタートアップは半年、1年とビジネスが上手くいかなければ会社が潰れてしまいます。だから即断即決で判断が早く、その結果、ビジネス全体のスピードも早くなっていきます。
一方で大企業の社員は通常、そんな心配をしながらビジネスをしていませんよね。その違いを感じることはありました。
小竹(NDV):
レスが遅い、ミーティングの日程候補が何週間も先になる、といった事態はやはり気をつけた方が良さそうです。
松井(ugo):
これは両者の違いというわけではありませんが、大企業は遠慮しないで、もっとスタートアップを活用してほしいですね。
原(NTT西日本):
松井さんの言う通りですね。スタートアップは行動が速く、理解力も高い方が多い。先を読む力にも長けています。大企業はスタートアップをベンダーと見るのではなく、自分たちを助けてくれる存在と捉える方がいいでしょう。我々はロボットなんて作ったことはないわけですしね。
松井(ugo):
企業同士の協業の根幹は、やはり「信頼」にあると思います。今回のプロジェクトも、原さんとでなければ実現できなかったかもしれません。熱い思いを持ち、大企業という複雑な組織の中で各部署を説得し、政治的な調整をやり遂げられる方との出会いは、スタートアップにとって運命を分ける重要な要素なのは間違いありません。
とはいえ、大企業の膨大な業務の中では、せっかくの素晴らしい取り組みも小さく見えてしまうものです。スタートアップ側も、共創の成果が担当者の社内評価に直結するようにサポートすることが大事だと思います。

小竹(NDV):
最後に、共創の今後の展開を教えてください。
原(NTT西日本):
世間では「新規事業」という言葉がよく使われますが、全く新しい事業は得てして成功しません。むしろ、既存事業の蓄積を活かすことで、道が拓けてくるものです。
NTT西日本はハードウェアを作る会社ではありません。一方これまでの既存事業では、ソフトウェアやネットワーク、セキュリティといった資産を築いてきました。これらを活かし、ugoをはじめとした次世代のインフラであるロボット産業を支えることが、日本のインフラを支えてきたNTTの使命であると考えています。引き続き、ugoを支え、新しいビジネスを創出していきたいですね。
松井(ugo):
ロボットは今後、半導体やGPUといったハードウェアの進化を背景に、Jカーブを描く勢いで急速に社会に普及していくでしょう。その際、日本の勝ち筋は、アプリケーションのきめ細やかな作り込みや、データの取得戦略になるはずです。これをNTTのようなオペレーション・エクセレンスを備えた企業とスタートアップが共に作り上げていかなくてはなりません。
高市首相はフィジカルAIに1兆円規模の投資を行うと言及しました。こうした国のレバレッジも活かしながら、ロボット産業を通じて外貨を稼いでいきたいですね。
小竹(NDV):
松井さん、原さん、本日はありがとうございました。両社の共創はこれからも続いていきます。またアップデートさせてください。
CVCから出資後、NTT本体が出資して共創を強化
続いては「『通話しながら動画を見る』が文化になるまで〜ウォッチパーティー市場創出に向けた共創のリアル〜」と題したセッションです。前の記事で、新ファンドの投資ジャンルの一つに「人をつなぐ / Communication & Community」があるとお伝えしましたが、その文脈にも沿う事例となります。本セッションに登壇していただいたのは、以下の方々です。
・パラレル株式会社 共同代表 青木 穣
・株式会社NTTドコモ 事業開発室 オープンイノベーション担当部長 小田倉 淳
・株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment & Business Development Managing Director 三好 大介

■「空間中心」から「人中心」の文化へ
三好(NDV):
最初に、パラレルについて簡単に教えてください。
青木(パラレル):
「パラレル」はオンラインのたまり場アプリです。Z世代を中心に800万人が登録しており、放課後の教室や部室、コンビニの前といった「仲の良い友達が自然と集まってくる場所」をスマートフォンの中に再現しました。ゲームや動画、音楽などのエンタメコンテンツなどを仲の良い友達と一緒に楽しむことができるソーシャルスペースとなっています。
三好(NDV):
NDVがパラレル社に出資したのは、2023年12月。同時に進行したドコモとの共創が上手くいっていることをうけ、2025年にドコモ本体からも、パラレル社に出資しました。前のセッションでNDVの小竹が言及していたような、スタートアップと大企業のオープンイノベーションとしての理想的な歩みとなっています。ドコモはなぜパラレルに出資をしたのでしょうか。
小田倉(ドコモ):
Z世代を中心とした顧客接点の拡充を目的として、パラレルに出資しました。この世代は、コンテンツそのものというよりも、友人同士の関係維持を大事にしていることもあるので、「友達と一緒にいるから契約したい」「友達がいるからやめない」といった、新しいタイプのエンゲージメントの確立を期待しています。

青木(パラレル):
パラレルとしても、これまではゲームを中心として顧客基盤を拡大してきたものの、ゲームに必ずしも響かない層、具体的には映像コンテンツを軸とした新規顧客の拡大を期待して、ドコモとの共創に至りました。
小田倉(ドコモ):
近年のデジタル・コミュニティというと、例えば「メタバース」が思い浮かびます。煌びやかな空間や現実を再現したデジタル観光地といったユースケースがありますが、これらは「空間中心」ですよね。
一方、今回の共創は、「人中心」というコンセプトを掲げました。コンテンツや空間そのものではなく、あくまで「人との繋がりをより豊かにする手段」として映像・動画を活用し、パラレルと新しいコミュニケーションのスタイルを構築していきたいと考えています。
青木(パラレル):
そもそもパラレルが提唱している体験そのものが新しいコミュニケーションスタイルだと認識しています。
パラレルのリリース前から、既にLINEやInstagram、XなどのSNSは広く普及しており、これ以上新しいコミュニケーションツールは不要ではないかと言われていました。しかし結果的には、現在800万人ものユーザーに登録いただいています。これは既存のツールとは異なる価値がパラレルにあるからです。この価値を今回の映像視聴体験と組み合わせることで、さらに広げていきたいですね。
三好(NDV):
具体的にはどのような体験の構築を考えているのでしょうか。
青木(パラレル):
まだ仮説段階ではありますが、重要なのは「リアルで楽しかった体験」をいかにオンラインへ置き換えられるか、だと考えています。
パラレルの場合は、既に仲の良い友達が集まっている場所に「これ面白そうだから一緒に観よう」とテレビのリモコンのチャンネルを合わせる視聴体験を提供できる。これは昔ながらの光景だと思われるかもしれませんが、若い世代にとっては非常に新鮮な体験なんです。
例えばホラーやバラエティ番組などは、みんなで見ると非常に盛り上がり、反応が良いことが分かっています。そういった相性の良いコンテンツを見定め、パラレルの体験と組み合わせることで、新しいコミュニケーションスタイルを確立できると考えています。
■共創が上手くいかなかったときの心の支え
三好(NDV):
共創を実現してきた上での苦労話を教えてください。

小田倉(ドコモ):
私は事業開発室でオープンイノベーションを担当していて、今回の共創を実現していくため、社内では映像配信サービス関連の部署とやりとりをしていました。当然ながらその背後には、映像コンテンツの権利者(IPホルダー)の方々も存在します。こういった方々とパラレルの間に立って、交渉を取りまとめていました。
映像配信チームについては、現状の仕事の品質が高まったり、効率化されたりするという話だったら、すんなりと話を聞いてくれたと思います。しかし今回の座組みは、「オンラインで友達と一緒に視聴する」という、これまでのドコモには無かった体験をユーザーに提供するものです。簡単には関心を抱いてもらえませんでした。
「アプローチは異なるけれどゴールは一緒」だとわかってもらってからは、時間はかからなかったのですが、それでも、社内の色んな方を説得するのに時間がかかったという意味では、パラレルにご迷惑をかけてしまいました。
三好(NDV):
大企業とスタートアップ、または社内の事業部間での連携においては、時間軸や予算感、目的のすり合わせといった調整がどうしても発生します。その中でプロジェクトを動かせるかどうかは、結局のところ担当者がどれだけ情熱をもって取り組めるかに尽きるのだと、皆さんの話を聞いていると実感しますね。
青木(パラレル):
そういえば、この協業をスタートする時に、パラレルとドコモの3人・3人で簡単な合宿みたいなものをやりましたよね。お互いの目的を、腹を割って話したのを覚えています。その後も2次会ぐらいまで飲みに行って。色んなステークホルダーがいる中で、最初から最後までオンラインでミーティングをするだけだったら、ここまで上手くいかなかったと思います。
小田倉(ドコモ):
確かに今思い返すと、あの時点で「ドコモはこういう理由で、こういったことを考えている」といったことを踏み込んでパラレル側にお伝えできたのは良かったですね。トラブルがあっても、それがお互いの支えになっていたように感じています。

三好(NDV):
とはいえ、今回の共創はまだ道半ばです。成功に導くためには何が必要だと考えていますか?
青木(パラレル):
共創における最大の肝は、やはり収益化できるかにかかっています。現在は新しい体験を創出するための実証実験段階ですが、これをいかに持続可能なビジネスモデルへと転換できるかが、両社が今後も動き続けるための鍵でしょう。
小田倉さんに先述していただいた通り、映像事業にはIPホルダーをはじめとする多くのステークホルダーが存在します。そういった方々と丁寧に折り合いをつけながらビジネスを設計していければ、大きなビジネスへと成長するはずです。
もちろん、「体験としては良かったけど、収益化には至らなかった」という結果に終わるリスクも十分にあります。難易度は決して低くありませんが、壁を超えるため、常に思考を巡らせているところです。
小田倉(ドコモ):
今回の共創は、コンテンツビジネスを「人中心」で設計していくという観点で、ドコモにとっては大きな意義があります。
今我々は、いかにコンテンツに没入してもらうかという視点ではなく、映像が持つ他の可能性について議論をして、実践しています。今回のプロジェクトが実現すれば、全く新しい価値を映像から生み出せるはずです。
三好(NDV):
素晴らしいですね。期待しています。最後に青木さんから、これからオープンイノベーションに取り組む方々にメッセージをお願いします。
青木(パラレル):
パラレルは、ユーザーが集い、長時間滞在する「たまり場」としての性質を備えるサービスです。そのため、コンテンツがあればあるほど、ユーザーに喜んでいただける環境となっています。
今回のドコモとの取り組みでは映像視聴体験にフォーカスしましたが、今後さらなるコンテンツの拡充に向けて、もし連携できそうな企業様や一緒に組みたい会社様がいらっしゃれば、ぜひお声がけください。

三好(NDV):
青木さん、小田倉さん、本日はありがとうございました。共創をより強固なものとしていくため、引き続き頑張っていきましょう。
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NTTドコモの前田社長や、NDVのCEO笹原・COO安元がオープンイノベーションについて語ったセッションの様子はこちらからご覧ください。
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(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)
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