クラウド電話とAIの相乗効果を狙うNTTとスタートアップの理想的協業 | 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ

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2023.08.23

クラウド電話とAIの相乗効果を狙うNTTとスタートアップの理想的協業

クラウド電話とAIの相乗効果を狙うNTTとスタートアップの理想的協業

 2023年6月に提供を開始した「ひかりクラウド電話 for MiiTel」。ポストコロナ時代を見据えたサービスであり、 NTT東日本とスタートアップのRevCommの協業による成果だ。 両社をつないだNTTドコモ・ベンチャーズ (以下、NDV) の担当者を交え、コラボで創出される新たな価値や次世代電話サービスの可能性について話を聞いた。

コロナ直撃で劇的に変わった電話を取り巻く環境

 新型コロナの嵐が吹き荒れた結果、場所に縛られない働き方がすっかり定着した。スマートフォン、タブレット、PCとインターネットに接続するデバイスがコミュニケーションツールの主流となり、かつてのスタンダードツールだった固定電話はいささか存在感が薄くなっている。

 とはいえ、オフィスを構える以上はビジネスフォンをなくすわけにはいかない。そこで昨今、インターネット接続環境下で従来の電話サービスが利用可能なオフィス向けクラウド型電話サービスが脚光を浴びている。これにより社員がどこにいても会社の固定電話番号で発着信ができ、マルチデバイスでの対応が可能となった。働き方改革を推進する電話DXの手段としても非常に有効だ。

 NTT東日本では2021年4月から「ひかりクラウド電話」の提供を開始し、「ひかりクラウド電話 for Microsoft Teams」、「ひかりクラウド電話 for Webex Calling」と外部サービスとの連携を拡充してきた。そして2023年6月、「ひかりクラウド電話 for MiiTel」がラインナップに加わった。

 「MiiTel」は音声解析AIを搭載したIP電話サービスで、電話営業や顧客対応を可視化できるのが特徴。開発・販売を手がけるRevComm(レブコム)は2017年に創業したばかりのスタートアップだが、ひかりクラウド電話とのシナジーが高く評価された。

ひかりクラウド電話 for MiiTelの概要。AIが記録した会話の内容を解析し、電話営業や顧客対応の効率化を支援する
ひかりクラウド電話 for MiiTelの概要。AIが記録した会話の内容を解析し、電話営業や顧客対応の効率化を支援する

 協業の架け橋となったのはNDVである。2020年にRevCommに出資し、早い段階からNTTグループにおけるソリューションとのマッチングを図ってきた。今回の協業は、その成果が実を結んだものだ。以下、協業プロジェクトに関わったメンバーによるインタビューをお届けしよう。参加者は以下の通り。

・NTT東日本 ビジネス開発本部 クラウド&ネットワークビジネス部 コミュニケーションサービス担当 担当課長 佐野泰介氏
・NTT東日本 ビジネス開発本部 クラウド&ネットワークビジネス部 コミュニケーションサービス担当 担当課長 西前健一氏
・RevComm アライアンス推進部 パートナーサクセス 土田雅也氏
・NTTドコモ・ベンチャーズ ディレクター 杉浦甲子郎氏

インタビューの参加者。左上から時計回りにNTT東日本の佐野泰介氏、NTT東日本の西前健一氏、RevCommの土田雅也氏、NDVの杉浦甲子郎氏
インタビューの参加者。左上から時計回りにNTT東日本の佐野泰介氏、NTT東日本の西前健一氏、RevCommの土田雅也氏、NDVの杉浦甲子郎氏

担当者は「最初から協業を確信」、その理由は?

――2社の協業のきっかけは。

杉浦氏
 ちょうど2年前、私がNDVに参画してすぐの頃にRevComm代表取締役の會田(武史)さんからMiiTelのデモと事業展望のプレゼンを披露していただいたんです。その際にプロダクトの質の高さ、NTTグループのターゲットとのマッチングに魅力を感じて、連携できる可能性が高いと直感しました。

 当時は新型コロナの影響がまだまだ大きかった時期で、営業を含めて社会におけるさまざまな活動が遠隔化していくタイミングでした。それを踏まえても、MiiTelはNTT東日本のクラウド系通信サービスと相互補完の関係になりそうだと考えたのです。

NDVの杉浦氏
NDVの杉浦氏

 ですから、この件に関しては連携することを確信して話を持ち込んでいます。当時の担当者に「このサービスなら高い確率で連携できるはずです」と連絡したことを覚えています。そのため最初から、決裁権を持った方とのプレゼンの場を設けてほしいとお願いしました。再度會田さんに説明していただき、その場で協業への前向きな感触を得ることができました。

――なるほど。NTT東日本の反応は最初から上々だったのですね。

西前氏
 はい。ひかりクラウド電話で主たるターゲットとして想定していたのがSMB(スモールビジネス)のお客さまだったこともあり、確実に“刺さる”商材だと思いました。MiiTelはAI解析が可能で、大がかりなコンタクトセンターに限らず、より小規模な営業の窓口でも使っていただけるサービスだからです。低コストであるにもかかわらず、これだけ多くの機能を提供しているサービスはなかなかありません。その点も想定ターゲットにマッチしていました。

 MiiTelがひかりクラウド電話と連携すれば、新たな領域、例えば業務DXに適用することができます。「さらに電話を高度化していくことができる」との思いからRevCommとの協業に至りました。

佐野氏
 新型コロナの前まではオフィスの各デスクに電話機1台という環境が普通でしたが、テレワークの普及や働き方改革の促進によって、離れた場所からのマルチデバイスでの対応が求められるようになりました。社会全体で柔軟性のある電話サービスが必要になったことを考えると、新しいラインナップにひかりクラウド電話 for MiiTelが加えられたことはわが社にとっても非常に価値のあるものだと考えています。

NTT東日本の佐野氏
NTT東日本の佐野氏

――MiiTelの特徴、強みとは何でしょうか。

土田氏
 MiiTelは一言で言えば、AI技術による解析・分析機能を搭載したIP電話サービスです。インターネット環境と端末、ヘッドセットさえあれば簡単に導入いただけます。この簡便さがポイントで、NTT東日本のお客さまとの親和性は高いと言えます。

具体的な機能としては、電話の通話内容をすべて自動的に録音し、その内容をAIが文字起こしします。そのうえでクラウド上に記録をデータベース化。AIが通話内容の解析や分析を行ないます。

 もたらされる効果は主に2つあります。1つはインサイドセールスでの活用です。コロナ禍によって「The Model型」(分業型の営業活動)の手法が浸透したタイミングと重なったこともあり、現在インサイドセールスに対する需要が高まっています。MiiTelではインサイドセールスのトップパフォーマーの話し方や間の取り方、どれぐらいの割合で何を話しているのかを定量的な数値で確認できるため、その数値に近づけることで、インサイドセールスの質を高めることが可能です。過去にアポイントが取れた音声記録だけを集約して順番に聞けるといった点もメリットです。これらの機能が、教育の工数削減や自身の営業トーク改善を支援します。

 もう1つは、コールセンターにおける活用です。オペレーターの“言った・言わない問題”などにエビデンスとして提供できます。またオペレーターを新規採用した際も良質なオペレーターのナレッジを広く共有して、高品質な応対に反映することができます。

MiiTelに搭載された機能の例。AIが話し方を定量評価することで、インサイドセールスのスキル向上や、コールセンター応対の質改善をアシストする
MiiTelに搭載された機能の例。AIが話し方を定量評価することで、インサイドセールスのスキル向上や、コールセンター応対の質改善をアシストする

中小企業のDXに最適、眠っていた音声が“宝の山”になる可能性も

――いずれにしろ、多方面で新型コロナの影響は引き金になったように思います。

土田氏
 確実にターニングポイントになりましたね。対面コミュニケーションがなくなってオンライン会議が増えてきたときに、誰が何を話しているかが非常にわかりにくくなりました。そのためMiiTelは、個々の働き方を見える化する管理ツールとしても評価していただいています。

西前氏
 コロナ禍になる前から、通話の可視化サービスを提供したいとの思いがありました。2019年頃から徐々にリモートワークが流行り始め、“場所に縛られない電話番号”のニーズが高まっていたからです。加えて新型コロナが落ち着いた現段階ではハイブリッドワークが普及し、社員が会社、自宅、サテライトオフィスなどにわかれ、いろんな場所で働くようになっています。こうしたスタイルにマッチするサービスはこれからも伸びていくはずです。

NTT東日本の西前氏
NTT東日本の西前氏

佐野氏
 とくにコミュニケーション分野は、ほかに比べてDXの推進が加速しています。そのスピード感に対応しながら、お客さまの要望にマッチするサービスやネットワークを打ち出していかないと競争に勝てないとの危機感を持っています。

西前氏
 佐野が話したように、NTT東日本のカルチャーも変化してきています。我々はクラウドとネットワークの両方を手がける部署ですが、クラウドの販売はNTT東日本だけでは限界があるので、ほかにはない強みがある企業と組んで相乗効果を生み出していく必要があります。だからこそ、お互いの強みを融合できる今回の協業には大きな意味があるのです。

――RevCommにとって、自社のサービスが日本を代表する強固なプラットフォームと連携していることで得られる信頼感は大きいのでは。

土田氏
 おっしゃる通りです。サービスとしてお客様に価値を感じていただくことには自信がありますが、どうしてもベンチャー企業が提供するサービスに懐疑的なお客さまも一定数いらっしゃいます。しかし、今回こういった形でNTT東日本と協業させていただくことによって信頼度が増し、サービスのイメージ向上にもつながっています。

RevCommの土田氏
RevCommの土田氏

――まさにスタートアップとNTTグループとの理想的な協業と言えます。最後に、今後の展望について教えてください。

土田氏
 NTT東日本のお客さまは東日本の中小企業が非常に多い。そして人口減少が進む中で、中小企業は優秀な人材を採用できずに困っています。MiiTelはナレッジが可視化・共有されるので、技能伝承や事業承継にも貢献できます。まずは既存人材の会話の内容を資産化することで、企業の競争力強化に役立ててほしいですね。

 一方でインサイドセールスはいわゆる反響営業のため、NTT東日本が得意とする地域密着型営業とは異なるアプローチになります。MiiTelはお客さまから問い合わせがあったときに価値をご説明してアプローチをかけることは得意ですが、地域密着型のような人間関係を醸成しながら接点を持つ方法がありませんでした。 我々がまだリーチできていないお客さまに対してひかりクラウドと一緒に価値を提供し、少しでも人手不足を解消できるような業務DXの第一歩として浸透させていきたいです。

西前氏
 NTT東日本ではビジョンとして「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業へ」を掲げています。地域の社会課題に対して、どのように新たな価値を創造し、届けていくかが最大のミッションです。とくに地域の中小企業には教える人もいなければ、教育や人材育成にかけるコストも不足しています。そうした困りごとを抱えているお客さまにとっても、課題解決に直接寄与できるツールだと考えています。

佐野氏
 導入するまでの難しさがない点がMiiTelの特徴です。ひんぱんに利用する音声サービスをフックに“クラウドは便利、使いやすい”といった意識が広がれば、電話から波及してほかの課題解決に資するクラウドサービスを導入する流れが地域にも根付くのではないでしょうか。

杉浦氏
 皆さんがおっしゃるように、人手不足を補い、リモートワークを加速させるツールになるのは間違いありません。もう1つ、ブラックボックス化した音声コミュニケーションが“宝の山”になるとの期待があります。各組織に眠っていた音声データが可視化されることで、これまで気づかなかったお客さまのニーズが明らかになり、新事業の種になるかもしれないし、プロダクト開発、サービス戦略に結びつくかもしれない。そこまで活用できれば、最強の補完関係になると思います。