優れた目利きで未来を拓く スタートアップの祭典から見えた「次なる景色」 | 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ

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2023.11.27

優れた目利きで未来を拓く スタートアップの祭典から見えた「次なる景色」

優れた目利きで未来を拓く スタートアップの祭典から見えた「次なる景色」

 2023年10月25日に開催された「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2023」。展示ブースにはNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が関わるスタートアップがずらりと並び、たくさんの関係者が詰めかけた。日本に上陸した米国発スタートアップ、NTTグループが設置した対話コーナーの様子を紹介しよう。

街のデジタルツイン、次世代半導体、データインテリジェンスを支える有望3社

 今年で8回目を迎えた「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2023」には、例年同様に将来有望なスタートアップが集結。展示ブースには25社が参加し、DX、AI、半導体、IOWN、MaaS、マーケティング、ゲーム、XR、サステナビリティ、政策など多様なカテゴリーのラインナップが揃った。この幅広さは、NDVの優れた“目利き”を物語っている。

 日本のみならず、米国、仏、独、イスラエルと世界各国からプレイヤーが集まったのも特筆すべき点だ。日本と米シリコンバレーに拠点を置き、イスラエルスタートアップとの協創開発に積極的なNDVならではのネットワークを改めて感じさせた。今回はその中から、米国に拠点を置く3社をピックアップ。サービス概要、日本市場への展望、NTTグループとのシナジーについて各社に聞いた。

●Hayden AI Technologies, Inc.

 Hayden AI Technologies, Inc.(以下、Hayden)は、“街のデジタルツイン”を可能にするソリューションを提供している。独自開発した高性能な車載カメラとエッジコンピューティングによってAI処理を行い、道路周辺の状況を分析。交通違反、路面や路側の監視、インフラの管理を自動化するのが目的だ。

Hayden AI日本支社の潮尚之氏
Hayden AI日本支社の潮尚之氏

 本ソリューションはすでに米ニューヨークやワシントンD.C.、フィラデルフィアなど大都市を走行する公共バスに搭載され、交通違反の取り締まりに貢献している。走行範囲内で発生した交通違反の種類、当該車両のナンバープレート情報、違反発生位置などを精緻に記録。日本支社の潮尚之氏は「米国では、それらの情報をもとに罰金を徴収するビジネスモデルを確立した」と話す。

 ただしこのビジネスモデルを日本でそのまま展開するのは容易ではない。そのため日本では道路の維持管理、自転車専用レーンの監視、駐車場のパーキングメーター監視など別角度からのアプローチが必要になると潮氏は言う。

 NDVは2020年頃からHaydenに着目し、2023年10月に出資を行った。シリコンバレー支店の下城拓也氏は「Hayden が持つ“街の目”という強力なインフラにNTTグループのソリューションを掛け合わせれば、海外に日本のノウハウを売り込んでいくプラットフォームとして活用できる」と期待を寄せる。

距離の誤差がほとんどない状態で対象物を認識できる技術が売り
距離の誤差がほとんどない状態で対象物を認識できる技術が売り

 潮氏も「日本を足がかりにアジア進出を考えている当社にとってNTTグループの協力は心強い。技術的には、例えばNTTデータのAIをエッジコンピューティングに組み込むことなどが想定されるだろう」とした上で、今後の展望について次のように語った。

 「我々の特徴は、高精度なVisual SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)によって10センチ単位で対象物の位置がわかること。さらに収集したデータにタグ付けすることで対象物をコンテキスト化できるのも強みだ。これらのデータを蓄積しながら、最終的にはデジタルツインへの応用や都市計画などに利用できるData as a Serviceを目指していく」(潮氏)

●Aloe Semiconductor, Inc.

 Aloe Semiconductor, Inc.(以下、Aloe)は2022年4月に設立したばかりのスタートアップ。光通信装置用のシリコンフォトニクス設計を手がける技術者集団である。シリコンフォトニクスとはシリコンのマイクロチップ上に光の集積回路を製造するプラットフォーム技術で、次世代光デバイスに不可欠な技術として脚光を浴びている。

 精密な技が求められるシリコンフォトニクスの設計はソフトウエアでの自動化が困難であり、未だに職人的な“人のセンス”が重視される。創業者のChris Doerr氏は2021年にシスコに買収されたAcacia Communicationsでシリコンフォトニクスのスター設計者として活躍した人物。そのDoerr氏が独立して立ち上げたのがAloeだ。

Aloeの設計をシリコン上に反映したイメージ
Aloeの設計をシリコン上に反映したイメージ

 同社では高速、大容量、小型、低コストを実現するシリコンフォトニクスを開発。グーグル、アマゾン、マイクロソフト、メタなど巨大データセンター向けのアプリケーションをターゲットにしている。400 Gbps、800 Gbps、1.6T bpsの設計に着手しており、そのうち400 GbpsのチップはすでにQSFP-DDのモジュールに組み込み可能だという。

 Aloe担当者のAtul Srivastava氏は「現在、データセンターでは大がかりな設備投資が加速し、需要が急増している。そこで長距離ではなく、データセンター内での超高速通信に特化してサーバー間をつなぐ技術を提供するのが狙い。我々が設計するチップはその心臓部を担うものであり、高い技術力に注目してほしい」と自信をのぞかせる。

NDVの木村氏(左)、AloeのSrivastava氏
NDVの木村氏(左)、AloeのSrivastava氏

 NDVでは設立当初からリード投資家として関与し、後に保有していた投資有価証券をNTTエレクトロニクス(現NTTイノベーティブデバイス)に譲渡。現在AloeはNTTイノベーティブデバイスの出資会社として活動を行っている。

 橋渡し役を務めたNDVの木村裕一氏は「本件は、NDVのNTTグループのCVCとしての存在価値や能力を発揮することができ、非常にエキサイティングだった」と振り返る。「NTTイノベーティブデバイスは光電融合デバイスなどのデバイスを開発するIOWN構想の中核事業会社。その構想を加速させるためにAloeは最適な協創パートナーであり、今後の活躍を期待している」と話す。これを受けSrivastava氏は「シリコンフォトニクスの超高速光デバイス市場は、日本はグローバルでも鍵を握る市場なので協業を加速させたい」と意欲を見せた。

●Alation

 世界中でデータ活用のニーズが激増する中、データインテリジェンスプラットフォームで名を馳せるのがAlationだ。データインテリジェンスプラットフォームとは貴重な経営資源であるデータを効率的に利用するためのツールを指す。Alationでは社内各所に分散するデータをAI、機械学習によって自動的に意味づけし、ブラウザ上で検索可能。これにより各部門の担当者が迅速に目的のデータにたどり着ける。

 データウエアハウスとBIツールの間に位置するため、専門家であるデータサイエンティストに限らず、事業部のビジネスパーソンがセルフサービスで利用できる。その結果、DXに欠かせない“データの民主化”を可能にする。事実、海外ではシスコ、ナスダック、セールスフォース、ファイザーなど450社以上がAlationを用いてデータドリブンの意思決定を行っている。

AlationチームとNDVの面々。赤いTシャツがNDVの井上氏、その右が日本担当者の小野氏
AlationチームとNDVの面々。赤いTシャツがNDVの井上氏、その右が日本担当者の小野氏

 日本の担当者である小野直之氏は「Alationを導入すれば、社内にどんなデータがあって、どのような意味を持ち、どのように活用できるかがすぐに把握できる。また、常に最新の状況で検索・閲覧が可能なため、本当の意味でのデータカルチャーが醸成される。使えるデータかどうかをAIが判定し、赤、黄、青の色分けでデータの信頼性を表すのも特徴だ」と説明する。

 「データに関するナレッジを蓄積・共有することでデータの粒度が圧倒的に高くなるのもAlationならではの優位性。データを活用する際は8割が探索や精査に時間を費やして、残りの2割で分析するのが一般的だが、Alationではその割合が逆転する。合計の分析時間が圧縮されるので、より早く意思決定ができ、やがては顧客満足度の向上につながる。その点が世界中の大企業に愛用いただいている理由だと思う」(小野氏)

 2023年6月に出資したNDVは、日本市場進出へのバックアップを継続している。シリコンバレー支店の井上正裕氏は「すでに米国では大きな存在感があり、データインテリジェンスプラットフォームの中では頭一つ抜け出ていた。我々としては最初からNTTグループとのシナジーを想定して支援を行ってきた」と話す。

Alationの操作画面イメージ。データのファイル名が自動で書き換えられ、どのような内容のデータかがひと目でわかる仕組み
Alationの操作画面イメージ。データのファイル名が自動で書き換えられ、どのような内容のデータかがひと目でわかる仕組み

 すでにNTTドコモではデータ関連部署で導入済みで、データ分析の高速化・効率化を実現しており、組織横断的に広げていく予定もある。「NDVの力添えがなければ、ここまで来ることができなかった。NTTドコモ以外でもNTTグループとの連携がいくつか始まっているので、日本での広がりを楽しみにしている」と小野氏。現在は問い合わせが引きも切らない状況とのことで、日本のDX需要に合わせて急成長する日も遠くはなさそうだ。

NTTグループとスタートアップがフェイス・トゥ・フェイスで好感触

 スタートアップの祭典という特色を活かし、会場にはNTTグループとの対話コーナーが設けられた。直接NTTグループの担当者と話せる機会とあって、多くのスタートアップが足を運んでいた。

 NTTドコモ スマートライフカンパニー ヘルスケアサービス部を訪れたWizWeは、教育・ヘルスケアの習慣化プラットフォーム「Smart Habit」を提供。代表取締役CEOの森谷幸平氏は「NTTグループは大きな社会インフラを運営している。協業できればPHRや健康増進などで役立ち、人生100年時代の支援に寄与できる」とアピールした。

WizWeの森谷氏(左)、ヘルスケアサービス部の佐久間氏
WizWeの森谷氏(左)、ヘルスケアサービス部の佐久間氏

 ヘルスケアサービス部 サービスデザイン担当課長の佐久間大輔氏は「NTTドコモが持つ膨大なデータをもとに、健康行動の促進や行動変容に活用できるかもしれない」と話す。健康行動は自主的な継続意欲が鍵となるだけに、Smart Habitのような習慣化ツールは相性が良いと言えるだろう。

 「comotto(コモット)」はNTTドコモが2023年3月に開始した子どもの成長を育む新ブランド。そのcomottoを訪問したのがゲシピの一行だ。ゲシピはメタバース教育事業を手がけており、主軸となるサービスの「eスポーツ英会話」はその名の通り、eスポーツを通じて英会話を学ぶプログラムとなっている。

 ゲシピ代表取締役CEOの真鍋拓也氏は「多少発音が間違っていても問題ない。英語で話す勇気、話す喜びを感じてもらうことが目的。実践的な英会話を重ねるうちに自信につながる」と話す。子どもの集中力が持続するため、保護者からの評価が高いのもポイントだ。NTTドコモ スマートライフカンパニー ライフスタイルイノベーション部 ライフスタイルサービス担当部長の古川学氏は「comottoでは業界を超えた協創パートナーを募集している。eスポーツは子どもに人気があるので機会があればご一緒したい」と語った。

ゲシピの真鍋氏(左)、ライフスタイルサービス担当部長の古川氏
ゲシピの真鍋氏(左)、ライフスタイルサービス担当部長の古川氏

 インバウンド向けのアプリケーションを提供するPayke(ペイク)はアジア圏を中心に約400万人のユーザーを持ち、位置・行動情報をベースにターゲティングやマーケティングに活用している。そうした背景もあり、デジタルマーケティングやOMOビジネスを担当するNTTドコモ スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部を訪問した。

 Payke取締役の宇田川悠氏は「お互いのデータをクロスさせることで相乗効果が生まれるのではないか」と提案。マーケティングイノベーション部 アライアンス担当課長の木邨麻記氏は「当社のインバウンドに関する滞留データ、行動データなどとマッチングすれば新たなデータビジネスに結びつくかもしれない」と前向きな反応を示し、改めてミーティングの機会を設けることを約束した。

Paykeの宇田川氏(左)、マーケティングイノベーション部の木邨氏
Paykeの宇田川氏(左)、マーケティングイノベーション部の木邨氏

 今回のイベントからは、これまで以上に「新たなパートナーとともに世界を変えていく」意思が伝わってきた。スタートアップの持つ斬新なアイデアや瞬発力、そしてNTTグループが持つ豊富なアセットやリソースが融合することでイノベーションが加速する。それだけに、双方のハブとなるNDVの“目利き”に今後も期待したい。

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