AI時代の電力問題を解決する核融合。ベリリウム低温精製技術はエネルギー安全保障にも貢献|MiRESSO×NTTアノードエナジー×NTTドコモ・ベンチャーズ

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は2026年2月、低温精製技術を用いたフュージョン(核融合)エネルギーに必要となるベリリウムを生産する株式会社MiRESSO(以下「MiRESSO」)への出資を発表しました。
これまで、ベリリウムの生産に必要なベリリウム鉱石の精製には、2000℃近い高温の鉱石溶解処理が必要でしたが、MiRESSOはこれを300℃で生産する技術を開発しています。現在は、低温精製技術の実証を行うパイロットプラントの建設に取り掛かっている段階。この技術が完成しベリリウムの量産化に成功すれば、フュージョンエネルギーの実現を目指す各社は、ベリリウムの安定かつ適正価格での調達が可能となります。
「フュージョンとNTT」と聞けば、もしかしたら両者の距離を感じるかもしれません。NDVはどのような狙いをもってMiRESSOに投資したのでしょうか。MiRESSO代表の中道さん、NTTアノードエナジーの田中、NDVの木村に話を聞きました。

フュージョンエネルギー実現に必要なベリリウムを生産する技術
── 最初に、MiRESSOについて教えてください。
中道(MiRESSO):
MiRESSOは、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)に認定されたスタートアップです。フュージョンエネルギーの実現に必要なベリリウムという金属の安定生産のために、低温でのベリリウム鉱石溶解を実現した新たな精製技術を開発し、また、その技術を他の金属精製やリサイクルに利用する技術プラットフォーム事業も併せて展開しています。
近年、核分裂と異なり安全と言われるフュージョンエネルギーには世界中から注目が集まっています。研究競争も加速していますが、そのエネルギー生産のためには、燃料として水素の同位体であるトリチウムが必要です。しかし純粋なトリチウムは、自然界にはほとんど存在しません。そのためフュージョンシステムを実現させるためには、人工的にトリチウムを生産する必要があります。その際に必要となるのが、ベリリウムという物質です。
私はQSTに長年勤め、核融合ブランケット工学、照射・計装技術を研究し、ベリリウムを低温精製する技術を研究してきました。これを商用化するために立ち上げたのがMiRESSOです。

株式会社MiRESSO 代表取締役CEO
近畿大学理工学部原子炉工学科卒業後、日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構)を経て量子科学技術研究開発機構(QST)において、核融合ブランケット工学、照射・計装技術を専門に研究。元QSTの量子エネルギー部門増殖機能材料開発グループリーダー。 東北大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。 QSTでの研究を活かし、フュージョンエネルギーの早期実現に貢献するため、2023年5月に当社設立。
中道(MiRESSO):
MiRESSOの低温精製技術を使えば、化学処理とマイクロ波加熱の組み合わせによって、低温・常圧でベリリウム鉱石であるベリルを容易に溶解できます。
端的に説明すると、この技術はつまり「レンチンで鉱石を溶解できる技術」です。実際、MiRESSOの低温精製技術で使っているマイクロ波は2.4ギガヘルツの一般家庭用電子レンジと同じもの。それを使ってフュージョンエネルギーに必要なベリリウムを生産できる、というわけです。
── フュージョンエネルギー実現に必要なベリリウムは、市場で足りていないのでしょうか。
その通りです。ベリリウムはフュージョン炉1基につき、300トン以上が必要になると言われています。しかし現在、世界ではそもそも年間300トンしかベリリウムが生産されていません。つまりフュージョン炉1基分もないのです。市場は寡占化しており、ユーザーの方々はベリリウムの調達に苦労していて、その取引金額も非常に高額となっています。
とはいえ、実はベリリウムが含まれる鉱石自体は、十分な埋蔵量があるんです。ただ既存の技術では、鉱石から純粋なベリリウムを生産するには高温精製が必要で、これがベリリウムの生産を困難にしてきました。またペグマタイトと呼ばれる鉱石には、微量にウランが混入することがあります。これをそのままフュージョン炉に入れてしまうと、放射能レベルが高く、放射能が減衰するまでの時間が長い長半減期の廃棄物を生んでしまうのです。
こういった課題を解決できるのが、MiRESSOの低温精製技術です。今まで2000℃が必要だった精製を300℃でできるようにしたことで、経済性・環境性・安全性が増し、ウラン不純物も確実になくせるようになりました。

── 現在MiRESSOはどのようなステータスにあるのでしょうか。
中道(MiRESSO):
MiRESSOは青森県に本社があります。同じ青森県にある大平洋金属株式会社と包括的な業務提携を結び、現在同社の敷地内でパイロットプラントであるBETA(Beryllium Testing plant in Aomori)の建設を進めているところです。
BETAはパイロットプラントなので年間1トン〜2トンほどの生産量しか見込んでいませんが、量産段階では年間100トン程度を生産できるようにしたいと考えています。現在、既に日本を含めて欧米のスタートアップからもそれを超える需要を表明していただいています。文部科学省系のSBIRや経済産業省系のNEDOなど、色々な補助金などにも採択されていますし、一日でも早く、ベリリウムを提供できるようにしていきたいです。
AIに必要な多量の電力をカバー
── NDVがMiRESSOに投資した経緯を教えてください。
木村(NDV):
NDVはビジョンに「世界の景色を変える力と想いが、世界中から集まるコーポレートベンチャーキャピタルへ。」を掲げ、スタートアップとNTTグループ両方の想いを掛け合わせ、世界の景色を変えていくことを謳っています。

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment & Business Development Director
創業メンバーの一人として2008年の同組織の立上準備段階からコーポレートベンチャー投資および協業開発に関与。主にイスラエル、東南アジア、欧州におけるスタートアップ投資を実行し、日本市場の参入およびNTTグループとの連携支援を実践。又、ファンド運営の確立やEXIT対応等、フロント、ミドル、バックの全業務を一気通貫で従事。現在、サステナビリティ領域を含め、イスラエル/欧州におけるNext Big Thingを探索中。
木村(NDV):
一方、現在NTTグループは、全社を挙げてAI領域に取り組んでいて、顧客に近いアプリケーションレイヤーから、データセンター、インフラまで、そのすべての範囲をカバーしようとしています。
ただ、AIを活用すれば活用するほど、電力不足が深刻な課題となるのは間違いありません。その解決の一助として期待しているのが、フュージョンエネルギーです。
フュージョンエネルギー技術は1940年代後半から開発されていますが、超電導磁石やAIシミュレーション技術の進化、出力パワーが入力パワーを上回った報告などから、実現可能性への期待値が上がっています。
とはいえ、現在フュージョンエネルギーを提供する会社は、2つの課題に直面しています。1つ目がプラズマの安定的な制御。NDVはこの課題を解決するアメリカのスタートアップCommonwealth Fusion Systems(以下「CFS」)に投資しています。2つ目が燃料・材料の安定的な確保。この課題の解決に貢献すると期待しているのがMiRESSOです。
MiRESSOはまだアーリーステージのスタートアップですが、この段階から連携を重ね、信頼関係を構築し、事業成長に貢献したいと考えています。
── NTTアノードエナジーはどのような会社なのでしょうか。
田中(NTTアノードエナジー):
当社はNTTグループの中で電力・エネルギー関連の事業を営んでいます。NTTグループが保有する通信ビルの電力設備も手掛けており、通信を支える電力供給を途絶えさせないよう、設計・構築・保守をしてきました。また、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入や、系統用蓄電所や電力取引等新たなエネルギー流通ビジネスも推進しています。そのため、究極のエネルギーであるフュージョンエネルギーにもずっと目を光らせてきました。
エネルギーは安全保障の観点からも大局的に捉えていく必要があると考えています。そんな中、NTTドコモ・ベンチャーズからMiRESSOとの座組みに誘っていただきました

NTTアノードエナジー株式会社 インキュベーション推進室 担当部長 技術士(電気電子部門)
東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻修士課程修了。NTT研究所に入社し、通信用直流給電システムの研究開発に従事。NTTファシリティーズでは、高付加価値いちご植物工場ビジネスの推進や、NTT宇宙環境エネルギー研究所では、核融合プラズマ安定制御や宇宙太陽光、直流グリッド等の研究開発のマネージングを経て、2025年から現職にて、新たなエネルギーソリューションの開発を推進中。
中道(MiRESSO):
昨今、データセンター運用をはじめ、電力の調達を課題に挙げる企業が増えていると聞いています。資金調達活動においても、その観点からMiRESSOに関心を寄せてくれる事業会社は少なくありませんでした。その結果、最終的には当初の予定である35億円を上回る42.3億円を集めてシリーズAを終えています。
木村(NDV):
「NTTとベリリウム」と聞くと、全然シナジーがないように思えて、なぜ投資したのか不思議に感じる方もいるかもしれません。ただここまで話題になっているように、電力サプライチェーンの安定化という意味で、フュージョンエネルギーがビッグテーマなのは間違いありません。
この大きな課題に挑戦するスタートアップとの連携は、NTTグループとしても意味があると感じています。すぐに何かしらの共創成果を生みだそうとしているわけではありませんが、この投資をきっかけに、情報収集や人脈・仲間づくりに繋げていきたいですね。
中道(MiRESSO):
NDVが出資しているCFSは、MiRESSOの顧客にもなり得る企業です。CVCの投資先の中だけでもフュージョンのコミュニティができるというのは、素晴らしいですよね。
今後、国内のフュージョン関連のプレイヤーが増えるにつれ、材料の安定調達が課題に挙がるはず。我々はその解決にも貢献し、ひいては国内のエネルギー安全保障にも貢献したいと考えています。

工場のIT化も視野に
田中(NTTアノードエナジー):
今回の共創は、シナジー創出という効果に加え、NTTアノードエナジーには意義がありました。
我々は「24時間365日、通信を支える電気を止めてはならない」というミッションをもつ会社なので、慎重になりがちな面があります。 また、今私たちが自ら新規事業に取り組もうとすると、どうしても「自分達の強みを活かそう」という観点からスタートしてしまう。もちろん短・中期のビジネスでは必要なことでしょうが、長期的には、今自分達が持ってない非連続的な技術やビジネスモデルも必要になるはずです。
そういう意味でも、一見当社の既存ビジネスとは関連が薄そうな領域で、NDVとスタートアップとの連携に関わることは、新しいアプローチとなります。今回の連携はそれを意識する良いきっかけになりました。
中道(MiRESSO):
だいぶ社内の説得に時間を割いていただいたようで、本当にありがとうございます(笑)。
田中(NTTアノードエナジー):
いえいえ(笑)。実は私は大学時代、核融合炉構造材料の研究をしていて、この分野には親しみを感じていますし、今回のMiRESSOとNDVとの新しいチャレンジには、私自身もワクワクしています。今回の取り組みを聞いた若手メンバーも目を輝かせており、上司も後押ししてくれました。

── 今後、パイロットプラントを立ち上げる中で、NTTグループへの期待があれば教えてください。
中道(MiRESSO):
BETAでは技術・経済的実証を行っていきますが、特定化学物質を扱うということもあり、安全衛生の観点からも効率性の観点からも、工場はなるべくオートメーション化したいと考えています。色んなセンサーやモニターを使って、健康、作業安全、データ収集を自動化していきたいんです。
NTTは工場のオートメーション技術についても深い知見があると思いますので、今後は工場の安全管理運用にもご協力をお願いしたいと考えています。
木村(NDV):
確かに、そこにはNTTグループの知見があるはずです。将来的な量産工場の建設に向けて、ITソリューション面からも貢献させてください。
中道(MiRESSO):
資金調達活動は終わりましたが、フュージョンはまだ、すぐに何かを達成できる段階の技術ではありません。プラズマと材料・燃料調達という大きな課題に取り組み、ブレイクスルーを生んでいく必要があります。
繰り返しになりますが、MiRESSOはベリリウムの調達という面からフュージョンエネルギーの早期実現に貢献していこうという会社ですし、低温精製技術は他の面でも活躍させていきたいと思っています。ぜひNTTグループの力を貸してください。
木村(NDV):
もちろんです。フュージョンエネルギーによる発電の実現に向けたエコシステム構築に貢献していきましょう。今後ともよろしくお願いします。

木村(NDV)&田中(NTTアノードエナジー):いいですね!
(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)