AIモデルが解決するファッション業界の課題。NDVが感じた、テクノロジーだけではないその強み | AI model ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ
2024年、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は、AIを用いて企業やブランド専属のオリジナルモデルを生成するAI model株式会社(以下「AI model社」)への出資を発表しました。
ブランドの成否に大きな影響を与えるモデル画像のクオリティ。しかしながらその用意には多くの課題が潜んでいます。この課題を解決するのが、AI modelです。
業界が抱える課題は。AIモデルはどのようにそれを解決するのか。NDVはAI model社のどこに魅力を感じ、投資を決め、NTTグループとどのような共創プランを描いているのか。AI model 谷口さんと、NTTドコモ・ベンチャーズ岩本に迫ります。
※以下、主に会社を指す場合には「AI model社」、サービスを指す場合には「AI model」と表記します。AIで生成したモデル画像で「ささげ」など業界の課題を解決する
── AI model社のサービス概要を教えてください。
谷口(AI model):
AI model社はその名の通り、AIを使ってファッションモデルやタレントの画像・動画を生成するサービスを展開する会社です。オリジナルのAI技術を2018年から開発し始め、2020年に「人の創造性をテクノロジーとクリエイティブで拡張し、ビジネスの課題を解決する」をミッションに掲げて会社を創業しました。
── なぜAI modelを開発するに至ったのでしょうか。
私は2016年に株式会社インターグルーブを創業しています。この会社は今に至るまで、主にアパレル企業向けに、クリエイティブ制作やECサイトの構築・運用・プロモーションなどを手掛けてきました。
WebサイトやECサイトを制作する際には当然、生身のモデルを撮影し、その画像を用意する必要があります。この画像は、そのクオリティやバリエーション次第で、売上やブランディングの成否に大きな影響を与えるので、非常に重要なものです。
とはいえコスト的な問題もあり、撮影はそう何回もできるものではありません。またモデルは媒体で利用範囲が限られるなど、様々な制限も存在します。
こういった課題をAIなどのテクノロジーを活用し解決できれば、ファッションを始めとした様々な業界の発展に貢献できる。そう思いAI modelの開発を始めました。
── AI modelを利用することにより、ブランド各社はECサイトなどで使うモデル撮影をする必要がなくなるということですね。
谷口(AI model):
確かにAI modelは現在、「ささげ(※)」により作成するECサイトの商品詳細ページに掲載されるモデル画像に留まらず、カタログやコンテンツ制作、広告、店頭POPなど、様々なチャネルの画像や動画を生成するために使われています。
とはいえ生身のモデルの起用は、そのモデルのライフスタイルに共感したり、そのモデルのファンへのブランドイメージ訴求を考慮したりして決めるケースも少なくありません。そのためモデル撮影自体がなくなることはなく、むしろモデル撮影の幅は広がっていくと思います。
── 一般にはあまり認知されていない、モデル撮影の課題の例を教えてください。
谷口(AI model):
例えば、子供のモデル撮影ですね。ブランドのイメージに合うモデルをみつけても、子供はすぐに成長してしまうため、すぐに新しいモデルを探さなくてはならなくなってしまうんです。1日の撮影時間も長くても2~3時間程度ですし、当然夜は稼働できません。複数サイズのモデルを揃えようとなったら、コストも跳ね上がる。そんな課題がありますね。
NDVが感じた、AI modelならではの強み
── NDVが最初にAI modelと出会ったときの印象を教えてください。
岩本(NDV):
AI model社は、NDVの投資先から紹介していただいたんです。それで谷口さんにお会いしたのですが、一緒に話を聞いていたNDVのメンバーはeコマースに詳しいこともあり、「これは面白い会社だ」と興奮していました(笑)。私も谷口さんからファッションを始めとしたモデルが必要な業界の課題を聞き、その課題の大きさや複雑さに驚きました。
岩本(NDV):
一般に、ECでは商品画像だけでなくモデル画像もあった方がコンバージョンが上がると言われています。とはいえ画像を用意するためのささげ業務は大変です。一旦撮影して終わりならまだしも、後から「この服のこのカットを足したい」なんていうケースもあるでしょう。今までは撮り直しにはかなりのコストと時間が必要だったわけですが、AI modelなら撮影のための追加コストはかからない。これは画期的だと感じました。
谷口(AI model):
通常、モデル撮影はコストを抑えるため、なるべく商品を溜めて一気に撮影するんです。ですが岩本さんが言うように、どうしても後から「この服を着た画像を追加したい」といった要望は出てきてしまう。
そんな場合でもAI modelなら、我々が開発した特殊なマネキントルソーに商品を着用させて撮影するだけで、すぐに新たな画像が生成できます。つまり商品を溜めずに、逐一商品画像が作れるんです。これがAI modelのメリットですね。
岩本(NDV):
AIを使ってモデル画像を作成するだけなら、他の会社でもできるかもしれません。ただAI model社の強みは、これまで谷口さんが培ってきた業界の知見を活かし、ささげ業務を中心としたペインを解消し、単にコストを下げるだけではなくコンバージョンを上げ、ひいては売上の増加に寄与する点だと感じています。NDVからの投資に際しても、そこを高く評価させていただきました。
谷口(AI model):
ありがとうございます。モデル画像を作るだけでクライアントさまの売上が増えるわけではありませんからね。そのためAI model社では、生成した画像を使ってコンバージョンを上げる支援も一気通貫で対応しています。これも我々の特徴です。
AIモデル画像制作の起点は、ブランドの世界観
── AI modelを使ってどのようにモデル画像を生成するのでしょうか。
谷口(AI model):
モデル画像・動画を生成するための技術はすべてAI model社が自前で開発したもので、様々なモデルを無限に生成できるようになっています。クライアントさまから、例えば「20代、女性モデル、アジア人、髪色は黒」といった具合いで作りたいモデルの指定をいただいたら、それに従ってモデルを数パターン作成し、共有。方向性が決まったらECサイト用、カタログ用、テレビCM用のように、用途に応じて生成のクオリティのチューニングを行い、モデル画像を作っていきます。
── 出てきたパターンに対し、「肌の色を少し変えたい」「髪を伸ばしたい」といった要望をさらに聞き、調整していくわけですね。
谷口(AI model):
その通りです。そのクライアントさまの過去のカタログや広告から、「こういうモデルがいいのではないでしょうか?」とこちらから提案するケースもあります。
── 作ったモデルが似たような容姿になるようなことはないのでしょうか。
谷口(AI model):
例えばいわゆる「ハイブランド」は世の中にたくさんありますが、それぞれでブランドの世界観は異なり、それ故に採用するモデル像もかなり異なってくるんです。そのためブランドの世界観をちゃんと理解してモデルを生成すれば、そこまで似通ってくるケースはあまりありませんね。
岩本(NDV):
でも現実の世界で理想のモデルさんを探すのは大変ですよね。そもそも世界観に沿うモデルがいるかわかりませんし……。
谷口(AI model):
そうなんです。特にコロナ禍の際は海外からの入国が制限されていたため、外国人モデルはその時に国内にいる方しか起用できませんでした。そのため同じモデルが色んなブランドに登場しているという現象が起こっていたんです。
これは極端な例ですが、AI modelなら「理想のモデルは思い描けるのだけど、アサインが難しい」といった事象は起こりえず、どのブランドでも理想通りのモデル画像を使えるようになります。
── 商談の際にネックになるポイントはありますか?
谷口(AI model):
実は、我々は今のところ営業活動はほとんどしていないんです。わざわざお問い合わせフォームから連絡をいただけるほど熱量が高いクライアントさまと商談を始めるので、あまりネックになるポイントはないですね。
強いて言うなら、AI modelは日本でも世界でもほとんど事例がないサービスなので、本当にAIでブランドの世界観が表現できるのかを心配する方はいます。とはいえ、担当者や決裁者に実際に生成したモデル画像を確認いただき、「こんなことはできる?」「ここをこうしたいんだけど」というリクエストに答えていくことで、安心して導入に繋がっているケースがほとんどですね。
想定外の課題も解決。AI modelとNDVの共創プラン
── AI model社がNDVからの投資を受け入れた決め手を教えてください。
谷口(AI model):
岩本さんがお話してくれたように、知人を介して岩本さん達にお会いし、AI model社の事業を紹介しました。NDVの方々は、他の投資家やクライアント、新しく入社するメンバーなどと比べても、事業理解がとにかく早くてビックリしたのを覚えています。現在の話だけでなく、中長期的なスケールビジョンもすぐに共有できました。
谷口(AI model):
またNDVは、NTTドコモ、ひいてはNTTという巨大なグループの一員です。その中でAI modelを活用した色々なビジネスチャンスが眠っているということも面談でわかりました。それで是非NDVに投資してほしいとお願いしたんです。
── 両社はどんな共創プランを描いているのでしょうか。
谷口(AI model):
まだ詳細はオープンにできないものの、NTTグループ内のEC関連サービスとAI modelを使った取り組みを開始しています。そのサービスも、やはりささげ業務を筆頭に色んな課題を抱えていたので、それをAI modelで解決していく予定です。
また、グループ内の別の企業では、AI modelを使って会社オリジナルのモデルを制作し、会社のWebサイトのキービジュアルなどで使っていただく予定となっています。
岩本(NDV):
これらの共創プランは、NDVが主催するイベントをきっかけに検討が始まりました。NDVは毎年、国内外の注目スタートアップ企業やNTTグループ各社が一堂に会するイベント「NTT DOCOMO VENTURES DAY」というイベントを開催しています。AI model社と、オリジナルモデルを制作予定のグループ会社は個別に引き合わせたわけではなく、このイベントに参加した両社が自然とマッチングし、共創に至ったものです。
岩本(NDV):
我々としても考えつく共創候補先はどんどん紹介していますが、会社オリジナルのモデルという機会があることまでは流石に想像がつかなかったので、本件には驚きました。このような偶発的な出会いを作っていくためにも、NTT DOCOMO VENTURES DAYのような投資先とNTTグループ各社が出会う機会を作ることは非常に重要だと思っています。今後もこういった取り組みは増やしていきたいですね。
── 共創プランは、投資する際にある程度決めているのでしょうか。
岩本(NDV):
もちろん投資前からどんな共創ができそうかといったディスカッションをし、具体的なプランを用意することはあります。しかしそれだけに拘ることはせず、順次AI model社とグループ内の会社・担当者を繋ぎ、一つずつ実現に向けて動いていますね。
谷口(AI model):
実際、岩本さんたちからは色んな案件を紹介していただいていて、全面的にバックアップしてもらっています。「ベンチャーキャピタルを選ぶ際には、会社だけでなく誰が担当かも重要」とはよく言われることですが、我々はいい担当者にあたりました(笑)。AI modelの投資検討してもらっているとき、岩本さんがかなり忙しかったじゃないですか。
岩本(NDV):
4日間で日本とシリコンバレーを弾丸で往復していたときですね(笑)。
谷口(AI model):
そんな忙しいときに情熱をもって投資対応していただいて、「この人は鉄人だな」と思いましたよ(笑)。
課題は同じ。海外にもAI modelの裾野を広げる
── 今後の共創の展望を教えてください。
岩本(NDV):
まだ具体的な案件になっているわけではありませんが、NTTドコモがプラットフォームとして保有している広告など様々なデータをアセットとして活用したいと思っています。NTTドコモに限らず、NTTグループには我々でも把握できないほどの会社やビジネス、アセットがあるので、AI modelと実現できる色んなビジネスチャンスが眠っているはず。我々としてもどこにどんな課題があるかアンテナを立てて、AI modelのスケールをサポートしていきたいと考えています。
谷口(AI model):
確かに、NTTはグループとしてBtoBtoXモデルを推進しているので、色んなデータが活用できそうですよね。AI model社がそれを活用することで、各社・業界の課題を解決し、新しいマーケットを創っていきたいです。
── 最後に、AI modelの今後の展望を教えてください。
谷口(AI model):
実は今、国内だけでなく、アメリカやヨーロッパを中心に、中国やアジアなど、海外からもかなり問い合わせをいただいているんです。外国語で情報発信しているわけでもないんですけどね。
でも、おかげで海外でもニーズがあることは確認できました。現時点では国内を中心にサービスを提供していますが、遠くない未来には海外でもサービスを展開できるように準備していきたいと思います。
── 国内外で、業界が抱えている課題は変わらないのでしょうか。
谷口(AI model):
変わらないですね。ただ、グローバル展開している企業とAI modelとの相性はいいはずです。同じ商品を展開するにしても、国・地域ごとに合うモデルを変えるというのは、ファッション業界にはよくあることですからね。でも当然ながら、その度にモデルをアサインするのは大変なんです。そういったことに困っているブランドには、AI modelを上手く使ってほしいと思っています。
岩本(NDV):
NTTグループは海外にもたくさん会社があって、色んな国・地域の課題をBtoBtoXで解決しようとしています。AI model社が海外進出するに際しては、ここにも共創範囲を広げていきたいですね。
谷口(AI model):
おお、ぜひよろしくお願いします!
── 谷口さん、岩本さん、本日はありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)