建設業界に変化をもたらす注目のスタートアップ、その魅力や今後の展開とは?

労働力不足や非効率な工程管理など喫緊の課題を抱える建設業界。課題解決の担い手としてNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が注目したのが、米カリフォルニア州のスタートアップ「Reconstruct, Inc.」(以下、Reconstruct)である。建設現場のDXを推進する同社のサービスを紹介するとともに、その特徴や可能性に迫る。
3Dモデルを使った新システムが建設現場のニーズに応える
近年、大規模インフラの建設や保守においては、作業の効率化や遠隔での進捗・維持管理に対する需要が世界レベルで急速に高まっている。そこで注目されるのが、各ステークホルダーのスムーズなコミュニケーションや遠隔地からの現場監査や管理などをリモートでも効率的に行なえる手段だ。具体的には、現実空間をデジタルデータ化してサイバー空間に再現する「デジタルツイン」や「BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling/Management)」※など、3Dモデルを活用した技術である。
※BIM/CIM:建設事業の調査設計・施工・維持管理の各段階で発生する必要な情報について、データモデルを介して連携させることで、建設生産システム全体の効率化を図る技術このような背景を踏まえつつ、NDVが将来性を感じて2021年7月に出資を行なったのが、3Dモデルを使った建設土木事業向け進捗・維持管理システムを提供するReconstructである。Reconstruct、同社との協業に取り組むオートデスク、NTTコミュニケーションズを交え、それぞれの取り組みや日本での普及に向けた課題、今後の展望について語ってもらった。参加者は以下の通り。
・Reconstruct, Inc. CEO Zak MacRunnels氏・オートデスク アジア太平洋地域土木事業開発統括部長 博士(工学) 福地良彦氏・NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部 5G & IoTサービス部 ドローンサービス部門第二グループ 担当課長 高田啓介氏・NDV マネージャー 下城拓也氏
写真や動画から3Dモデルを作成、mm単位の差異まで検知可能
――はじめに、Reconstructが提供するサービスの概要を教えてください。
Zak氏
AIや機械学習による独自のアルゴリズムを使用し、建設現場で撮影した動画や画像から現在の状況がわかる3Dモデルを作成。それを元の設計3Dモデルと重ね合わせることで、その差分から進捗の遅延などを把握できるシステムを提供しています。
昨今はコロナ禍の影響で、直接現場に足を運ぶことが難しくなっています。そこで屋内建設現場内を360度カメラなどで撮影した画像から3Dモデルを作成します。これにVRを組み合わせ、遠く離れたオフィスから3Dモデル内を歩き回り、あたかも現場にいるかのような感覚で状態を確認することができます。
また、大型の橋梁などではドローンを使って撮影した画像から3Dモデルを作成し、設計通りに正しく施工されているかどうかを確認可能です。品質保証の観点からも、穴やひび割れなどが確認された場合には修理の必要性を判断できます。

――海外の建設現場では、進捗管理にデジタルが広く利用されているのでしょうか?
Zak氏
はい。米国や欧州ではデジタルが広範囲に活用され、大きなメリットをもたらしています。構造物の設計にあたり、3Dデジタルツールの使用を義務付けている国もあるほどです。今後はデジタルが当たり前になっていくと考えています。
――Reconstructが持つ特徴や他社にない強みは何でしょうか。
Zak氏
1つ目は特許で、AIや機械学習に関連した特許を5つ取得済みです。2つ目はデジタルで定量的に測定できるメジャーラビリティ(測定可能性)。フォトグラメトリー(写真測量法)や独自の特殊エンジンによって写真や動画からcm単位での誤差で長さを測定できるため、写真だけでも精度の高い3Dモデルの作成が可能です。
3つ目は、作成した3Dモデルを元の設計3Dモデルの上に重畳する技術です。従来は左側に設計3Dモデルを置き、右側に現状の写真を置いて比較するのが一般的でした。しかしReconstructでは1年半の研究期間を経て、3Dモデルを重ね合わせる特許技術を開発。高解像度の写真を用意できれば、最終的にはmm単位での誤差まで検知することが可能です。建造物によっては数mmの違いが重要になるケースもあるため、そこまで追求したのです。

日本と海外では大きな違いがあり、その対応も重要に
――オートデスクは建設用のCAD(図面作成)ソフトウエアをリードする存在です。Reconstructに着目した理由を教えてください。
福地氏
我々は以前から、それぞれの顧客あるいは国によってさまざまなニーズがあると考え「ニーズのすべてに対してオートデスクのみで対応することは不可能」とのスタンスを取ってきました。そのため各分野で優れた技術を持つ企業とパートナーを組むことを前提としており、Reconstructに白羽の矢を立てました。
海外と比べると、残念ながら日本は建設業界のデジタル化がかなり遅れています。海外ではメジャーな工程シミュレーションソフトが広く普及しており、中小の小さな建設会社でさえも導入しています。ところが日本の場合は超大手ゼネコンであってもいまだにExcelを工程管理に使用しているような状況です。それを踏まえると、日本でもReconstructの3次元による工程の可視化が大幅な効率化をもたらすと期待しています。
――海外のようにデジタル化を進める必要があるということですね。
福地氏
おっしゃる通りです。現在は昔と違って情報量が増え、それに伴って現場監督の負担が増大しています。実際、従来の方法ではパンクしているケースが少なくありません。ただ日本の場合は手直しが発生しても、発注者側が追加発注などで吸収してくれるため何とかなっている。逆に、海外の場合は責任が明確に分かれているため、必然的に新しい技術に頼らざるを得ないという背景があります。
もう1つ、日本のエンジニアや現場監督はとても優秀なため、新しい技術に頼らなくても、自分たちである程度対応できてしまう点も大きな違いです。海外の場合は外国人労働者が数多くいるため、事前に完成形を見せたりプロセスをわかりやすく説明したりすることで、実際の作業時に大きな効果が得られるわけです。そう考えると、共通化を図るデジタルツールがなければもはや成り立たないとも言えるでしょう。

――なるほど、日本と海外の違いや現場のニーズなどがよくわかりました。では、NTTコミュニケーションズはなぜReconstruct に着目したのでしょうか?
高田氏
海外の現場では、日々提出される作業報告書と現場の実態が乖離しているケースが多く、現場の状況を正しく把握できないため何とかできないかとお客様から数多く寄せられていました。こうした課題を解決できるソリューションをグローバルで探したところ、Reconstructを発見してコンタクトを取りました。
――Reconstructのサービスを活用し、どのようなプロジェクトを実現しようと考えていますか。
高田氏
現時点では海外がメインとなる予定で、インフラやプラントなど海外の新規建設プロジェクトに関わる日本企業向けのサービス提供を検討しています。一方、国内についてはまだニーズを把握している段階です。どちらかと言えば先ほどZak氏が触れたように、橋梁などの既存施設の点検や保守といった分野を想定しています。
NTTコミュニケーションズとしては最終的に「産業DX」を目指しているので、デバイスやネットワークなどの提供からデータの利活用までを統合的に1つのソリューションとして提供できるような“プラットフォーマー”としての立ち位置を確立したいと考えています。私自身、ドローンサービス部門に所属していることから、ドローンやIoTデバイスなども含め、幅広い提案を実現できればと思っています。

――NDVがReconstruct に出資した理由は。
下城氏
まずはドローンをはじめとするNTTグループのビジネスとの高い親和性が挙げられます。さらに、コロナ禍による働き方改革やリモートによる作業の効率化、あるいは先ほどから話に出ている日本と海外の建設労働者の違いなども踏まえ、場所を選ばずクラウド上で建設現場の進捗管理を可能とするReconstructに大きな成長の可能性を感じました。
NDVとしては、現在進んでいるNTTコミュニケーションズとの協業に加えて日本でのReconstructのプレゼンスを高めるべく、積極的に投資家に対してReconstructのサービス内容をアナウンスしているほか、「DOCOMO VENTURES DAY」などのイベントに招待しています。2023年2月には米国にある投資先のスタートアップと日系企業のシリコンバレー駐在員と交流を図るイベントを開催しましたが、そこでもReconstructに登壇していただきました。

今後は海外のやり方を受け入れていくことが求められる
――改めて、Reconstructのサービスが建設業界の課題解決に与えるインパクトとは。
Zak氏
日本に限らず米国でも労働力不足は深刻です。生産性を高める手段として我々のサービスを導入する機会が多く、建設が計画通りに進んでいる比率が30%向上し、作業の手直しが10%削減されたというデータも出ています。それから環境面での貢献も大きい。現場の監査や管理を遠隔で行なえるようになれば、現場へ赴く回数も少なくて済むため、移動に関連するCO2排出の削減につながります。作業の手直しを減らすことで廃材の無駄を削減できる点も見逃せません。
――日本の建設業界において、将来的にReconstructがイノベーションを起こすと思いますか?
高田氏
日本の場合、このようなサービスや技術を導入する際にはコスト削減をキーワードに据えがちです。しかし、コスト削減には限界があります。導入によって昨日までのやり方を見直すとともに新しいやり方を受け入れることで、新しい時間や価値を生み出すことができます。フローにしっかり組み込んでいくことで業務プロセス改革につながる可能性があると考えています。
福地氏
BIM/CIMも含めた新しい技術は、活用するプロセスまでが変わらないと本当の効果は期待できません。そうした点を考慮すると、顧客のプロセスを変える“触媒”のような存在にはなり得ると思います。ただしプロセスを変えるまでには時間がかかり、成果が見えづらい、技術を理解しにくいなどのウィークポイントもあります。これらを克服したうえでReconstructのサービスをしっかりと活用できるようになれば、従来とは違った効果が見えてくるはずです。
日本の企業はこれまで国内だけで成長してきたため、無理にアプローチを変える必要はありませんでした。しかし、今後海外にも進出していくのであれば、海外のやり方を理解する必要性が当然出てきます。ですから、海外で当たり前に使われている技術を日本でも同様に使っていくことが、これからのビジネスには必須になるでしょう。
今後はデジタルで対応できる部分はデジタルに任せ、人間は人間にしかできないところに時間を割くことが非常に重要になってきます。そうすれば、さまざまな面で余裕が生まれる可能性も十分にあり得ますし、日本が推進するウェルビーイングにつながってくると思います。