情報最適化と口コミ分析が成し遂げたシン・デジタルマーケティング | 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ

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2023.03.23

情報最適化と口コミ分析が成し遂げたシン・デジタルマーケティング

情報最適化と口コミ分析が成し遂げたシン・デジタルマーケティング

 リアルとデジタルの融合が進む現在、デジタルマーケティングは次の時代へと突入した。移ろいやすい消費者の心をつかむには、迅速かつ適切な”答え”が求められる。検索・地図・口コミ分析をかけ合わせ、コンバージョン率向上と作業負荷軽減を成し遂げた施策に迫る。

正しい情報をタイムリーに届けることがデジタル時代のマナー

 情報を得る手段として、日常に組み込まれたWeb検索という行為。いま、どこで、何をしているかによって消費者が求める答えはさまざまだが、ニーズがマッチングすればデジタル、リアル問わずコンバージョン率(成果達成率、以下CVR)が高まる。そこに情報の最適解を届ける手法がデジタルマーケティングだ。

 デジタル広告、メルマガ、SEO、SNSなど時代とともに進化してきたデジタルマーケティングの活用手段において、いまホットな領域がMEO(Map Engine Optimization)である。昨今ではGoogle検索の結果にGoogleマップと紐付いた店舗情報が口コミ評価とともに上位に表示されるようになり、幅広い認知・集客のためにはGoogleマップをはじめとしたWeb上の店舗情報の最適化が不可欠となっている。

 2022年5月にNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が出資したmovは、消費者の声を業務改善・売上向上につなげるDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス「口コミコム」をメインに事業を展開する。店舗情報の一元化、口コミ分析、タイムリーな販促情報配信を武器とする口コミコムはMEOツールとしても高い評価を得ており、リアル店舗を多数展開する外食、小売、アパレル、リユース、美容、宿泊、レジャーなどの業種に導入済み。集客アップやコスト削減、顧客満足度向上などで目に見える効果をもたらしている。

口コミコムのサービス画面イメージ
口コミコムのサービス画面イメージ

 NDVの出資により、NTTドコモとの協業も開始した。「dポイント」「d払い」を中心とするデジタルメディアと密に連携し、多彩なリーチ手段のデジタルマーケティング強化を図るのが狙いだ。

 刻々と変わる消費者のニーズに対し、いかにジャストタイミングで“正確でオトクな情報”を届けるか。MEOを軸にシン・デジタルマーケティングの構築に挑むmov、日本ピザハット、NTTドコモ、NDVの4者によるインタビューをお届けしよう。参加者は以下の通り。

・mov 代表取締役 渡邊誠氏
・日本ピザハット マーケティング部 デジタルオウンド課 課長 薮内浩平氏
・NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 コンシューママーケティング企画担当部長 兼 ポータル推進担当部長 橋田直樹氏
・NTTドコモ・ベンチャーズ 新井春香氏

インタビューの参加者。左上から時計回りにmov 代表取締役 渡邊誠氏、日本ピザハット マーケティング部 デジタルオウンド課 課長 薮内浩平氏、NTTドコモ・ベンチャーズ 新井春香氏、NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 コンシューママーケティング企画担当部長 兼 ポータル推進担当部長 橋田直樹氏
インタビューの参加者。左上から時計回りにmov 代表取締役 渡邊誠氏、日本ピザハット マーケティング部 デジタルオウンド課 課長 薮内浩平氏、NTTドコモ・ベンチャーズ 新井春香氏、NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 コンシューママーケティング企画担当部長 兼 ポータル推進担当部長 橋田直樹氏

企業にとって無視できない外部サイトの最適化

――口コミコムとはどんなサービスなのでしょうか。

渡邊氏
 地図アプリや口コミサイト、グルメサイトなどの情報を一元化するサービスで、現状、17媒体と連携済みです。それら連携済みのサイトに対して、おもに3つの機能を提供しています。

 1つ目の店舗情報管理では、休業や営業時間などの情報を一括管理し、常に正しい状態を伝えることができます。作業者の更新作業負荷が激減することに加え、「店が開いていなかった」「出店、退店の情報が古い」「店舗のメニュー情報が足りない」などの消費者の不満を解決し、ブランドの毀損を防ぎます。

 2つ目の口コミ分析では、お客さまからどういう評価が集まっているのかを分析できます。口コミやアンケート結果を集約して分析することで、「お客さまが何を求めているか」を可視化し、サービスの改善や従業員のモチベーションアップなどにつなげます。

 3つ目の販促機能では、キャンペーン、セール、クーポン情報などを適時に届けることができます。多店舗展開しているチェーン店においても、複数媒体に対して瞬時に配信できるため手間がかからず、より的確なデジタルマーケティング施策が可能になります。弊社の試算によれば、単月で1000万円ほどプラスになることが示されており、売上の向上に貢献するとして導入事業者にも喜ばれています。

自身がチェーン店好きという渡邊氏。インバウンド向けのサービスを含め、たくさんのデジタルマーケティング支援に関わっている
自身がチェーン店好きという渡邊氏。インバウンド向けのサービスを含め、たくさんのデジタルマーケティング支援に関わっている

――日本ピザハットは以前から口コミコムを利用しています。このサービスを選んだ理由は。

薮内氏
 従来、我々のプロモーションはチラシやテレビCMなどが主流でした。しかしスマホやSNSの普及で消費者とのタッチポイントが増えたこともあり、2015年頃からデジタルプロモーションに力を入れるようになりました。

 取り組みを続ける中で、我々は2019年頃からMEOの重要性に気づきました。当時、Googleが「近くの●●を教えて」といったCMを流し、いまの気分にあわせて検索できることをアピールしていた影響もあると思います。詳しく調べてみるとGoogleビジネスプロフィール(Google検索とGoogleマップを管理する公式の無料ツール)で掲載した情報経由の流入率、CVRが高いことがわかり、ここで集客すればビジネスとしてよりインパクトが出せるのではないかと考えたのです。

 Googleビジネスプロフィールは無料で情報管理できるのが魅力でしたが、情報の更新は1店舗ごとしかできず、400店舗以上のデータを管理するのが大きな負担となっていました。そこで一括管理・更新や口コミ分析ができる口コミコムを知り、導入を決断しました。

渡邊氏
 多くの企業でSEOを含めた自社サイトへの流入強化を図ったり、SNS専用チームを設置したりなどしていますが、Googleマップやグルメサイトなど外部サイトからの流入には多忙で手が回っていません。また、某ホテルのデジタルマーケティングを支援した際、Booking.comなどのOTA(Online Travel Agent、ネット専業の旅行代理店サービス)の口コミを解析して、店舗の業務改善に大いに役立てることができました。

 これらの背景をもとに、外部サイト最適化にフォーカスしたプロダクトとして口コミコムを開発した経緯があります。薮内さんからは導入前にご相談を受け、Googleマップにはまだまだ伸びしろがあることを一緒に話し合っていました。

薮内氏
 そうなんです。宅配ピザという性格上、当時はまだ自宅に届けることがメインで、店舗に足を運んでテイクアウトすることは注目されていませんでした。ところが持ち帰り半額のキャンペーンを展開したところオンライン比率がぐんと上がり、コロナ禍で一気に流れが変わりました。仮に2020年に開始していたら、その恩恵を受けられなかったかもしれません。

藪内氏はバイト時代から日本ピザハットに勤務する生え抜き。もちろんリアル店舗の店長経験もある
藪内氏はバイト時代から日本ピザハットに勤務する生え抜き。もちろんリアル店舗の店長経験もある

――導入後の効果のほどは。

薮内氏
 まずはオンラインで正しい情報を伝えられるようになったことが収穫です。導入前は休業中だったり、店舗自体が移っていたりなどしていても情報が古いまま残っていることがありましたがそうした間違いがなくなり、ブランドに対する信頼性向上に寄与しました。

 さらにキャンペーンやクーポン情報をスムーズに届けられるので、適切なタイミングで情報を提供して後押しすることが可能です。例えばテレビCMでピザお持ち帰り半額キャンペーンを流しても、お腹が空いているとは限りませんよね。一方、Googleマップを介して流入してくる場合は、お客さまの購買意欲が高まっていることを意味します。宅配ピザは差が出にくい業種ですから、この一押しが重要になってきます。

橋田氏
 確かにおっしゃる通りです。私はdポイントクラブのデータを活用したデジタルマーケティングに携わっていますが、食の宅配サービスがほかのECと決定的に異なる点は、お腹が空いていない状態では買わないということです。旅行などと違い検討期間が非常に短いのが特徴で、ピークは昼と夜に集中しています。お腹が空いたタイミングで短い期間で検討して検索した結果、即座に半額キャンペーンのアウトプットが出てこないと候補に上がりにくい。そうなると検索行動の中でいかにタイムリーに情報を伝えられるかが鍵を握ります。

――なるほど。口コミに関してはいかがでしょうか。

薮内氏
店長には「オンライン上に自分の店があると思ってほしい」と伝えています。口コミを細かく分析することで、自分の店舗がどのように評価されているのかを把握することが大事です。なおかつ店舗に対して点数がついているわけですから、目を背けることはできません。

 こうした意識づけがオンライン比率を高め、やがてはオペレーション改善につながります。なぜなら電話注文は時間がかかるからです。しかしオンライン注文ならその時間が削減され、聞き間違いも発生しないため万が一のトラブル対策にも有効です。結果的にサービス向上にリソースを割けるようになり、お客さまや従業員も含めた好循環が確立されます。ですから今後はより一層、リアルとデジタルが地続きであることを念頭に置いた店舗運営が必須になると考えています。

NTTドコモの総合力をかけ合わせてシナジーを創出

――NTTドコモが口コミコムと協業しようと思ったきっかけを教えてください。

橋田氏
 dポイントクラブには約9200万人(2022年9月時点)のdポイント会員がおり、dポイント加盟店数は523社(2022年9月時点)を数えます。これだけ膨大だと、お客さまにリーチするメディアに正確な情報が掲載されているかが勝負の分かれ目になります。その点は、薮内さんが話された課題と同様です。

 ドコモのメディアに正確かつタイムリーに加盟店の情報を掲載しようとした場合、加盟店の皆様から営業時間やメニューなど店舗情報に関するデータを手動で共有いただきメディアに反映するような、アナログな運用ではとうてい追いつけません。いかに加盟店の皆様の負荷を少なくして正しい情報をドコモメディアに掲載し、キャンペーンやクーポン情報をジャストに届けられるかを考えたとき、口コミコムが最も適していると判断しました。

 今回のスキームはマッチングビジネスに近いと思っています。我々には独自のデータベースがあり、お客さまの属性や行動履歴を把握しているのが強みです。このデータを活用することで、例えばピザハットでの購入確度が高い会員に向けてキャンペーン情報を送ることが可能です。

橋田氏は「デジタルマーケティングを最適化するためにはベーシックな部分の正しい情報をすべてのメディアが持っていることが欠かせない」と話す
橋田氏は「デジタルマーケティングを最適化するためにはベーシックな部分の正しい情報をすべてのメディアが持っていることが欠かせない」と話す

――movはNDVからの紹介だそうですね。

橋田氏
 はい。NDVからは複数の候補となる企業を紹介いただき、すべて直接お会いしました。選択基準は明確で、Googleマップへの情報掲載のみを提供し、他のメディア掲載を考えていないポリシーのスタートアップはお断りしました。ドコモメディアを充実させたい思いがあったこと、加盟店のブランドを広げていく上で近い業種をターゲットにしていることが肝だったからです。その条件を踏まえると、mov社が最も優れていました。

――NDVはmovのどこに惹かれたのでしょうか。

新井氏
 かつて私はドコモのマーケティング部に所属していました。蓄積された膨大なデータを分析し、どのようにしてお客さまにドコモのサービスを継続していただくか、あるいは新規加入していただくかに取り組んでおり、データの収集や、分析に時間がかかる現実を肌で感じていました。それを効率的に集約するツールを提供していることに興味を持ったのがきっかけです。

 また、かつてABCクッキングに出向していた際、店舗型ビジネスが変わりゆく様を間近で見てきたことも影響しています。当時はコロナ前だったこともあってオフライン前提の運営でしたが、その頃でさえまずはオンラインで口コミを調べてから店を選ぶことが普通になっていました。そうした実体験を踏まえて、口コミ評価に課題を感じている店舗運営事業者はたくさんいるに違いないと考え、出資に至りました。

渡邊氏
 ありがとうございます。おかげさまで口コミ分析に関しては高い評価をいただいています。試しにほかのツールを導入した企業が1年、2年経って成果が出ないことがわかり、口コミコムに切り替えるケースが増えてきました。ドコモとのスキームでさらに幅が広がるので、我々も協業に期待しています。

終わりがないからこそデジタルマーケティングは面白い

――時代とともに変わり続けるデジタルマーケティングですが、当事者としてどのように発展していくと考えていますか。

渡邊氏
 私はGoogleマップ一極集中主義にはならないと予想しています。Googleマップが強力なことは事実ですが、店舗の集客ルートはグルメサイトやOTA、宅配サービスなど豊富に存在しますから。例えば今回の取り組みによって、ドコモメディアからの流入でピザハットへの流入が増えるのは確実です。言うなればデジタルマーケティングの一手段としてのドコモメディアであり、Googleマップであり、食べログであるのが正しい姿。ですからGoogleだけを対象としたMEOにこだわらず、外部サイトの最適化をきちんと行なう方向にシフトしていくのが理想です。

橋田氏
 我々としては、多種多様なデジタルマーケティングメディアの中で、ドコモメディアがファーストチョイスになってもらえるようにしなくてはなりません。プッシュメディアやメールメディアなどリーチする手段はたくさんあるので、それらを駆使して適切なタイミングで適切なコンテンツを届けていきます。そしてdポイントをいろんなシーンで利用していただくためにも、お客さまにしっかりとナーチャリングする必要があります。それこそがデジタルマーケティングですから、最も効果が出る手法を試しながら継続していきたいですね。

新井氏
 デジタルマーケティングツールはレッドオーシャンですが、これまでの実績が示すように口コミコムは成果を出しています。その上で変化が激しいデジタルマーケティングの先を見据えているのが心強い。今回のようなマルチステークホルダーを結んでの協業・連携は、NDVにとっても協業先とともに成長できる貴重な機会だと捉えています。

自らの経験を胸に秘め、NDVの窓口として協業を推進した新井氏
自らの経験を胸に秘め、NDVの窓口として協業を推進した新井氏

薮内氏
 ピザハットにとって“ピザを作ってお客さまに届けて食べていただくこと”は不変です。ただし、お届けするプロセスはどんどん変わっていくでしょう。例えばメタバース上でピザを注文できたり、ドローンが配達したりなどが現実になるはずです。

 そうした中、デジタル領域においてピザハットはほかのピザチェーンよりも進んでいる自負があります。最近ではLINEと連携して、オーブンに入れたタイミングで焼き上がりの時間を通知するサービスを始めました。店頭で焼き上がりを待つこともなく、よりタイムリーに持ち帰ることができるので、熱々の商品を食べられると好評です。このように、さまざまなプロセスでお客さまに未来を見せることができます。デジタルの施策にゴールはありませんが、そこが面白さでもある。これからも積極的にチャレンジしていきたいですね。