災害やインフラ監視、環境トレーサビリティまで。「衛星データパイプライン」が促進する企業の衛星活用|New Space Intelligence ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は2025年4月、異なる衛星のデータを比較・統合できる状態に整える独自の校正・統合技術を核に、世界中の衛星データを社会で活用できる形へ変換するデータ基盤を開発する株式会社New Space Intelligence(以下「NSI」)への出資を発表しました。
NSIは、顧客の目的や予算、頻度などに合わせて複数の衛星データを選択できるシステム「衛星データパイプライン」と、地球の状態を継続的に数値化する指標である「Global Index」を開発する大学発スタートアップです。
NSIが提供するサービスや、衛星の課題は。NSIとNTTグループはどのような共創を築こうとしているのか。NSI CEOの長井さん、CFOの千束さん、NDVの坂本に聞きました。

衛星ごとに異なるデータを比較できるように
━━ 最初に、NSIについて教えてください。
長井(NSI):
NSIは、タイにあるアジア工科大学院と山口大学発の、衛星データ解析を専門とするスタートアップです。
具体的なサービスとしては、目的・予算・頻度に合わせて多種多様な衛星データを複数選択・統合・解析・提供できる「衛星データパイプライン」と、地球の状態をバーチャルに継続的に数値化する指標「Global Index(以下「GLI」)」を開発しています。

株式会社New Space Intelligence 代表取締役社長 CEO
GIS・オープンデータのエキスパート。
アジア工科大学院(AIT/タイ)において博士前期課程修了。
AITアジアリモートセンシング研究センター・助手としてGISに関する研究に従事。
日本大学理工学部社会交通工学科・助手、山口大学応用衛星リモートセンシング研究センター・学術研究員、ListenField株式会社・ COOを経てNSIを創業。
━━ 衛星データ解析にはどのような課題があるのでしょうか。
長井(NSI):
近年、地球を観測する衛星の数は急激に増加しており、それに伴い、衛星データをビジネスなどに利用する動きも加速しています。
衛星データに含まれるのは、画像データだけではありません。例えば、赤・青・緑・近赤外といった波長情報のような、各種数値情報も含まれています。それらを組み合わせることで、地表面の状態を調べることが可能です。例えば植物の状態や水質といったことですね。
しかしながら、現在の地球観測衛星の市場構造は極端に分散しています。大手はいるものの、各国・各社が数基ずつ保有している状況。衛星の仕様もバラバラで、それぞれで種類や解像度、観測条件などが異なっているんです。そのため、同じ場所を同じ時期に撮ったとしても、出力されるデータは全然異なってしまいます。つまり、異なる衛星のデータは、そのままでは一緒に利用したり、比較したりすることができないんです。
NSIの創業メンバーは元々、衛星データ利活用を専門とする山口大学の長井正彦教授の下、災害対応をしていました。その際、例えば災害の前後の画像を比較するためには、同じ衛星のデータを使う必要があり、その点をずっと不便に感じていたんです。

千束(NSI):
だからといって、同じ衛星を使っていれば問題がないというわけでもありません。衛星は宇宙の厳しい環境にずっと晒されているので、時間の経過とともに、センサなどがどんどん劣化していってしまいます。つまり、同じ衛星のデータでも変質していってしまうんです。初号機と10号機では、同じ場所の撮影をしても位置や色味がズレるということは珍しくありません。同じiPhoneでも、10と15ではカメラの精度が異なるようなイメージですね。当然、地上に戻して修理して、打ち上げ直すなんてことも難しい。衛星が突然運用停止になることもあるでしょうし、頻度やコスト、見逃し、継続性といったリスクがあることも否定できません。

株式会社New Space Intelligence CFO
米系大手証券会社入社、投資銀行本部にて金融法人・事業法人の事業リストラクチャリング、ターンアラウンド案件に携わる。
其の後、投資コンサルティング法人、法律事務所にて資金調達、事業再編を含む財務上の諸問題に関するソリューション提供を担当。
現在、新しい考え方・新しい技術と現業を融合し、新しい価値、新機軸を創造するをテーマとし、複数のアカデミアと連携したプロジェクトマネジメント業務を推進する。
空間情報科学を目下の事業テーマとする。
長井(NSI):
そこで必要になるのが、衛星データの校正(キャリブレーション)です。ただ、単にAIを使って画像をキレイにすればいいというわけではありません。AIを使えば、確かに画像の見た目の均一化はできるでしょう。しかし、裏側の数値はやはりバラバラのままです。これでは数値情報が比較できません。
そこでNSIは、AIだけでは修正できない、位置ずれやにじみといった衛星データ特有のエラーを、地上に設置したミラーリフレクターを経由して補正する技術を開発しました。(教師データから見た目だけを修正するのではなく)波長データ自身を修正することで、見た目のブレをなくしています。
これをサービス化したのが「衛星データパイプライン」です。衛星データパイプラインを用いれば、見た目がバラバラだった衛星写真が同じになるだけではなく、同じ現象に対して同じ数値データを提供できるようになります。つまり、異なる衛星データを一緒に使えるようになるというわけですね。
千束(NSI):
企業はAPI連携することで、多種多様な衛星の中から最適な衛星データを利用できるようになります。複数の衛星を使えるので、企業が衛星を使える頻度も上がるでしょう。価格が高く高精度のものから無料のものまであって、様々な種類の衛星を組み合わせればコストも下げられる。センサや異なる軌道の衛星を組み合わせれば、見逃しも減らせます。利用していた衛星の突然の運用停止に困ることも少なくなるはずです。

長井(NSI):
実は、NASAやJAXAも自分たちの衛星の校正はしているんです。ただ、彼らは非常に広大な敷地にエンジニアを数名、数カ月派遣して、大気の補正や位置のずれのパラメーターを作っています。
一方でNSIは、世界に1カ所だけミラーリフレクターを設置するだけという、今までの手法とは全く異なる先進的な方法で同様の内容を実現しました。
── 「衛星データパイプライン」を利用するのは、どのような企業が多いのでしょうか。
長井(NSI):
主に、電気・ガス・水道・道路といったインフラ企業ですね。
我々が特に得意としているのは災害対応です。例えば震災があり、ある地域で家屋が倒壊したとしましょう。通常は家屋が「倒壊したか」「倒壊していないか」というゼロイチの判定のみが行われますが、我々は「家屋の全壊」「半壊」といった被害レベルまで解析をし、さらにはそれを建物ごとに可視化できます。「被害が激しいエリア」「車は通れないエリア」といった区分も可能です。救援だけでなく、災害ごみの処理や、罹災届の作成にも活用できるでしょう。
千束(NSI):
NSIが資本業務提携を結んでいるJR東日本は、日頃から線路の監視をしています。とはいえ、7,400kmすべての線路を監視するのが大変なのは想像に難くありません。自社の線路は継続的に監視していたとしても、災害時には自社の敷地外からの影響も勘案する必要もあります。ドローンやCCTVカメラで対応するケースもありますが、衛星データも活用できれば利便性が上がるのは間違いないでしょう。そこで、鉄道インフラにおける衛星データを活用した新しいメンテナンス技術が実現できないか、JR東日本とNSIで、現在PoCを進めているところです。
似たコンセプトで、広島県には不法投棄の監視で使っていただいています。以前は月に1回定期的に点検していたものを、今後は衛星データから変化があった際に現地確認を行うといった運用へ転換できるかもしれません。他にも、EUDR(欧州森林破壊防止規則)のような森林のトレーサビリティへの活用も見込まれます。

両社の共創で宇宙ビジネスを拡大する
── NDVがNSIに投資した経緯を教えてください。
坂本(NDV):
2024年に宇宙ビジネスの新ブランド「NTT C89」(エヌ・ティ・ティ シー・エイティ・ナイン)を立ち上げたように、NTTグループは宇宙ビジネスの展開を年々広げています。NSIに投資したファンドは投資領域の一つに「宇宙」を掲げており、NDVとしても魅力的な宇宙スタートアップは継続的に探してきました。
そうした中で出会ったのがNSIです。「衛星は増えているものの、横断してデータが使えない」というペインに対するソリューションを提供していると知り、大きな魅力を感じました。同社は大学発で技術力も高く、衛星データパイプラインという具体的なアプリケーションも既に展開している。GLIを用いて、営農や保険などのインデックスでの事業も拡大予定ですし、最初からグローバル展開を見据えているのも魅力的でした。
両社がタッグを組めば、NTTグループの宇宙領域のエンタープライズ向けソリューションの幅が広がるし、NSIの事業拡大にも貢献できる。そう考え、NSIへの投資に至っています。

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment & Business Development Director
NTTデータに新卒入社後、データセンタビジネスの開発・企画・運用に長らく従事。
市場のITインフラへのニーズがオンプレミスからクラウドに変化する中、ハイブリッドでのITインフラ運用サービスの企画に携わる。
2022年からはLow-Codeプラットフォームやプロセスマイニング関連ビジネスのプリセールスをマネージャーとしてリード。
2024年4月にNTTドコモ・ベンチャーズ参画。
── NSIとNTTは、どのような共創案を描いているのでしょうか。
坂本(NDV):
短期的には、NTTグループが事業展開している衛星データを活用した各種エンタープライズ向けサービスとの連携を考えています。特に、地球観測衛星サービスからの衛星データを活用した高度な地図データ事業は、NSIの校正技術との親和性が高いはずです。
また先ほど、JR東日本が鉄道監視にNSIの技術を使っているという話がありましたが、同様のことをNTTの通信インフラでも使えないか、検討しています。
千束(NSI):
鉄道に限らず、インフラの監視という業務は広範囲に及びます。労働人口が減っている中でその業務を担う人が足りなくなっているし、人がいたとしても業務自体が危険ということもあるでしょう。そういった問題を、両社の技術を組み合わせて解決していきたいですね。

坂本(NDV):
NSIが展開する衛星データパイプラインは、衛星データを校正して高品質にする技術です。その性質上、民間企業に加え、政府・自治体とも連携が可能であり、これは独自のポジショニングだと考えています。NTTグループは行政との仕事も数多くあるので、この周辺でも接点を築いていきたいですね。
インデックス化で衛星データ活用の幅を広げる
長井(NSI):
繰り返しになりますが、NSIは、衛星データを「画像」ではなく、インフラ監視や農業に活かすための「数値データ」として捉えるGLIの開発も進めています。
GLIは、データを独自に補正・数値化してインデックス(指標)化することで、宇宙データ活用の幅を広げようとするもの。例えば、土地利用の変化や環境の状況を数値化してインデックスにすることや、コモディティ取引の判断材料や、災害被害の客観的な評価、金融・環境分野でのトレーサビリティ確保などに利用できるでしょう。既存の枠組みを超えて「衛星データの新しい市場」を切り拓くことが我々の狙いです。
坂本(NDV):
将来的には、GLIを用いたアプリケーションも、NTTグループと一緒に開発を進められないか、検討しています。こちらでも、ぜひ共創を築かせてください。
長井(NSI):
よろしくお願いします。GLIの用途は広く、あらゆる産業や事業で使っていただけるような枠組みになるはず。NTTグループが展開する様々な事業に関われたら、非常に嬉しいです。ぜひよろしくお願いします。
坂本(NDV):
GLIができたら、色々なところで世界観ががらりと変わりそうですね。応援しています。頑張っていきましょう。
━━ 長井さん、千束さん、坂本さん、本日はありがとうございました。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)


