15周年を迎えファンド累計が1000億円を突破した国内最大級のCVC、その新代表が語る“次なる挑戦”とは

ベンチャー支援を始めて15周年を迎えるNTTドコモ・ベンチャーズ。国内コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の先駆者が歩んできた道のり、変わらないパッション、これからの展望について新代表の安元淳氏が語る。
運用金額は国内最大級の累計1050億円に、さらなる高みを目指して新たな航海へ
NTTドコモ・ベンチャーズの歴史は2008年2月に始まった。この年、前身のNTTインベストメント・パートナーズが産声を上げ、2013年に現在の商号へ変更。15年の歩みの中で、スタートアップとNTTグループの架け橋として数々の実績を上げてきた。
運用金額も堅実な成長を見せる。「NTTインベストメント・パートナーズファンド」および「ドコモ・イノベーションファンド」は2023年4月に累計1050億円へと到達し、ついに1000億円の大台を突破。新時代のイノベーションに向け、パートナーの発掘や育成、コラボレーションをさらに強化していく。
15周年の節目となる2023年6月、安元淳氏が代表取締役社長に就任した。商号が変わる前の2012年から6年間 NTTドコモ・ベンチャーズに在籍し、NTTドコモでスポーツやエンタメを手がけた後に再び戻ってきた人物である。新たな航海に臨むキャプテンに、NTTドコモ・ベンチャーズの“これまでとこれから”を中心に話を聞いた。

――改めて15年の歴史について振り返っていただけますか。
前身のNTTインベストメント・パートナーズが立ち上がったのが2008年。まさにスマートフォンやSNSの黎明期で、市場のメカニズムが変化するタイミングにあわせて次々と新しいスタートアップが誕生しました。この流れを受け、NTTグループがともに手を取り合って発展していく仕組みがCVCという形に結実しました。
もっともNTTが民営化した当初から、社内で完結するのではなく、社外の方々とパートナーシップを組んで変わっていかねばならないとのマインドが根底にありました。そしてこの15年間で、グループ内のマインドセットはよりポジティブに変わってきたように思います。今では有力な共創先にスタートアップを選ぶことは珍しくありませんし、新しい技術やサービスと真摯に向き合う姿勢が芽生えていますから。
我々自身、NTTドコモ・ベンチャーズの活動を通じて新風を吹き込むことができたと実感しています。「変革は辺境から生まれる」との言葉もあるように、一貫してスタートアップとコラボレーションを続けてきたことが、結果的にNTTグループの成長装置として機能していると考えています。
――確かにこの15年間は激動の時代でした。スタートアップの傾向も変わってきたのではないですか。
出資領域は徐々に変わってきています。初期は個人向けアプリやサービスを軸としたBtoCが多かったのですが、ここ数年はBtoB、BtoBtoCが増えていますね。加えて、私が一度離れた2018年以降は、国内外のスタートアップでバリュエーション(企業価値評価)が上がった時期でもあり、状況も変化していました。そうした点を踏まえても、事業計画の蓋然性を精査する場合はBtoBのほうが評価しやすい側面があったんだと思います。
一方でBtoCの場合、「本当にこのサービスが100万人単位のユーザーを獲得できるかどうか」は判断できない難しさがある。ただこちらも最近では新しい潮流が生まれ、VTuberのようなIP(知的財産)やコンテンツでグローバル展開を目指すスタートアップが出てきました。基盤となるプラットフォームではなく、コンテンツレイヤーの部分 で勝負する傾向が強まっている印象です。
――当初100億円から始まったファンドの運用金額も累計1050億円まで増加しました。この成果については。
継続的にファンドを組成できているのは、財務リターンが評価されているからです。財務リターンで結果を出し、そのうえでNTTグループ各社の事業に貢献する戦略リターンがKPI、KGIとして積み重なってきた成果だと捉えています。
ですが手堅く財務リターンや共創が生まれる案件だけではないですし、バランスは重要です。財務リターンは取れないかもしれないけれども、もしかしたら5年後に我々の事業を支えるビジネスモデルになるかもしれない――そうしたスタートアップにはしっかりと投資します。全体のバランスを見ながら投資をしていくスタンスは基本的に変わっていません。

――最近注目している領域は何でしょうか。
関心領域の1つとしては、ブロックチェーンをはじめとするWeb3.0です。次世代のコミュニティモデルがDAO(分散型自律組織)になると予想される中、そこは面白い動きになると思っています。依然として広く社会実装されていないのが悩みですが、経済圏を確立するようなブレイクスルーをもたらすスタートアップの登場を待ちたいところです。
また、非連続なイノベーション(従来の延長線上にないこと)も注視しています。例えば2023年7月には、NTTとスカパーJSATとの共同出資により株式会社Space Compassが設立されました。このジョイントベンチャーは宇宙領域でのデータセンターなどの事業を運営していく予定ですが、そこでもスタートアップの技術を視野に入れ、グローバルで探索を続けています。
ライトパーソンとつないであげて、最短距離での成長を促す
――過去には起業支援や伴走型インキュベーションプログラムを手がけるなど、常にスタートアップの発掘・育成に寄り添ってきたのも大きな特徴です。
資金を提供するだけではなく、世の中を変えようとしている人たちにNTTドコモのあらゆるアセットを供給したいとの思いが出発点です。とくに初期はNTTグループ内でスタートアップのプロダクトを活用したり、あるいはさまざまなクライアントを紹介したりして、シード/アーリー期のビジネスをいかに成長させられるかにフォーカスしていました。
そこから発展して、今ではイシュードリブン(論点やテーマを見定めること)に力点を置くようになりました。NTTグループ各社が抱えるペインをカバーするサービスやテクノロジーを持ったスタートアップを引き合わせ、お互いがWin-Winになる関係を心がけています。共創を通じてスタートアップ、NTTグループ各社の売上・利益にどれだけ貢献できるかが目指すべきゴールの1つ。そう考えると出資はあくまでも手段であり、仮に出資しなくてもゴールに到達できれば我々にとっても本望なのです。

――なるほど。ご自身が関わった中で印象深いスタートアップはありますか。
正直、どのスタートアップも印象深いですね。 過去に担当したスタートアップは21社ありますが、そのうち15社がExitしましたから、成長するスタートアップを見極めている自負はあります。
とはいえ、CVCにとっては上場だけが正解ではありません。場合によっては上場よりもNTTグループによるM&Aがエグジットになる場合もある。その典型が、NTTコミュニケーションズ(現・ドコモグループ)の連結子会社となったPhone Appli(フォンアプリ)です。
2017年に出資したPhone Appliはクラウド電話帳を法人向けに提供するスタートアップで、NTTコミュニケーションズとの共創が非常に上手くはまりました。ちょうどクラウドPBXが普及し始めたタイミングでもあり、新たな付加価値を持つクラウド電話帳をサービス連携することでシナジーが生み出せたからです。そこで最終的にNTTコミュニケーションズの傘下に入りました。
この案件は先鞭的に投資を行ない、共創できるポジションを確立し、戦略レベルが上がるとともに事業会社が買収をした好例です。IPOの数も1つの指標ですが、CVCとしてはむしろこういう案件を増やすことが重要だと考えています。
――共創をセッティングするに当たっての秘訣は何でしょう。
大切にしているのはスピード感。そのためには、事業部のライトパーソン(適切な人物)につなぐことが不可欠です。NTTグループに限らずほかの大企業でも、何度打ち合わせしてもなかなか決まらないことが往々にしてありますよね。だからこそ、意思決定できる人とスタートアップを直接引き合わせることが肝心です。スタートアップの1日1日は我々が想像する以上に貴重な時間。共創チームのメンバーにも、なるべく遠回りさせずに引き合わせをセッティングするように伝えています。

――最後に、今後の展望について教えてください。
今後は、ミドルやレイターのスタートアップに対しても、NTTドコモ・ベンチャーズとしてしっかり共創にコミットし、事業拡大を実現できるような体制にすることが理想です。
その実現に向けて、短期的には私たちからの出資比率を引き上げていく必要もあると考えています。ただし、そのためにはステップ1からきちんと信頼関係を作ることが必要です。その潤滑油になることが、CVCである私たちが本来担うべき役割だと思っています。
また日本のスタートアップに対して、グローバル進出の支援をすることも可能です。NTTドコモ・ベンチャーズは米国のシリコンバレーにも拠点があり、欧州やイスラエルなどともパイプを持っています。それこそDay1からグローバルに打って出るような起業家とパートナーシップを組んでいきたい。日本発のディスラプティブ(破壊的)なテクノロジーやビジネスモデルを持ったスタートアップに出会えることを期待しています。