ビッグデータ×衛星画像で植生・生物の広域推定。NTTとの共創で、世界の生物多様性をリードする|バイオーム ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ | 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ

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2025.05.27

ビッグデータ×衛星画像で植生・生物の広域推定。NTTとの共創で、世界の生物多様性をリードする|バイオーム ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ

ビッグデータ×衛星画像で植生・生物の広域推定。NTTとの共創で、世界の生物多様性をリードする|バイオーム ✕ NTTドコモ・ベンチャーズ

 2025年、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(以下「NDV」)は、生物多様性ビッグデータサービスを運営する株式会社バイオームへの出資を発表しました。

 バイオームは、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」をはじめ、世界中の生物のリアルタイムな分布データを取り扱った生物情報プラットフォームの構築を目指すスタートアップです。出資に合わせ、NTTグループ5社と「衛星画像データを活用した、植生および生物の広域推定技術」への開発着手もリリースしています。

 バイオームとはどんなサービスなのか。なぜ近年生物多様性への関心が高まっているのか。その中でバイオームはどのような位置づけになろうとしているのか。そしてNTTグループとの共創内容は。バイオーム代表の藤木庄五郎さんと、NDVの投資担当である田口知宏に話を聞きました。

※以下、主に会社を指す場合は「バイオーム」、アプリを指す場合は「Biome」と表記します。

バイオームの藤木庄五郎さん(左)と、NDVの田口知宏
バイオームの藤木庄五郎さん(左)と、NDVの田口知宏(右)

企業や自治体の生物多様性戦略にも貢献

―― バイオームが展開するサービスについて教えてください。

藤木(バイオーム):
 バイオームは、生物多様性価値の社会への浸透を目的に設立した京都大学発スタートアップ企業です。TNFD(※)対応やOECM(生物多様性保全地域)取得にも対応する生物調査支援ツール「BiomeSurvey」、生物多様性可視化サービス「BiomeViewer」といった複数のサービスを提供しています。

(※)自然関連財務情報開示タスクフォースのことで、企業・団体が自身の経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し、情報開示する枠組みの構築を目指し取り組む国際イニシアティブ

 その中でも一般ユーザー向けに提供しているのが、いきものコレクションアプリ「Biome」です。ユーザーが撮影した生物の名称を独自のAIで判定。日本国内ほぼ全種(約10万種)の動植物に対応しています。図鑑、地図、SNS、クエストといった機能も備えており、ゲーム感覚で楽しめるように設計しました。

 これまで、アプリの累計ダウンロード数は112万、全国のユーザーの皆さんからの投稿は800万件以上。これらのデータは、要望に応じて環境保護団体や研究機関などに提供され、生物の分布状況を把握し、生物多様性保全のための基盤情報としても活用されています。

藤木 庄五郎|FUJIKI Shogoro 株式会社バイオーム 代表取締役 CEO
藤木 庄五郎|FUJIKI Shogoro
株式会社バイオーム 代表取締役 CEO

1988年7月生まれ。2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得。在学中、衛星画像解析を用いた生物多様性の可視化技術を開発。ボルネオ島の熱帯ジャングルにて2年以上キャンプ生活をする中で、環境保全を事業化することを決意。博士号取得後、株式会社バイオームを設立、代表取締役に就任。生物多様性の保全が人々の利益につながる社会を目指し、世界中の生物の情報をビッグデータ化する事業に取り組む。データを活かしたサービスとしていきものコレクションアプリ「Biome」を開発・運営。経済産業省が認定する『J-Startup』、未来を創る35歳未満のイノベーター「Innovators Under 35 Japan 2021」に選出。環境省「2030生物多様性枠組実現日本会議行動変容WG」専門委員。

―― Biomeの面白い使われ方はありますか?

藤木(バイオーム):
 バードウォッチャーの方々が、人生の中で発見した鳥を記録していく「ライフリスト」をBiome内で作成しています。こういった使い方をしていただけるのも嬉しいですね。

 またアプリ内には「コレクション」という機能があって、自分の選んだ動植物を、コレクション名をつけて記録できるんです。田舎のコンビニの街灯や光には、蛾やカエルが集まってきますよね。それを「コンビニで見つけたいきものコレクション」として記録し続けている方がいます。「田舎に行けば行くほど品ぞろえが豊富です」なんて書いてあって(笑)、これも面白い使い方ですよね。各々が自分なりの楽しみ方で動植物に触れているのは、非常にありがたいなと思いながら見ています。

―― ユーザーごとに色々な楽しみ方があるんですね。

藤木(バイオーム):
 はい。ただし、バイオームとして気を配っている点がいくつかあります。Biomeは生物多様性のデータを扱っているサービスなので、例えばすべての生物の生息地を公開してしまうと、希少種の乱獲や密猟などのリスクが発生してしまいます。バイオームの本懐は生物を守ること。そのため希少種のデータに関しては、強制的に場所情報を非公開にして、サービス上では一切公開していません。重要なデータを扱っているという自覚をもって事業を運営しています。

―― Biomeは企業や自治体にも利用されています。

藤木(バイオーム):
 企業の場合はネイチャーポジティブ関連で利用いただくケースが多いですね。「何かしらのアクションをしたいが、何をしたらいいか...」と困っている企業の足がかりにしていただいています。

 例えば、Biomeを使って従業員と地域の方々が一緒になって生物を登録し、生物多様性の可視化をしています。先述したクエスト機能を利用して「〇〇企業の✕✕を探す」という生物多様性に関連するクエストを作って、調査をユーザーに依頼する、という使い方も増えてきました。

藤木(バイオーム):
 自治体はまた異なる観点で利用いただいています。例えば地域の生物多様性戦略を考えるにしても、そもそも当該地域にどのような生物がいるか把握しなければなりません。その調査も含めて市民にクエストを依頼する自治体は多いですね。純粋に地元の方々に自然を楽しんでほしいからとBiomeを利用いただいている自治体もあります。関心を高めてもらうことも生物多様性地域戦略の一環なので、これも立派な生物多様性活動の一環です。

 他にも、観光目的や外来種駆除や希少種保全、水質保全のためのデータ収集といった目的でも使われています。総じて、地域に紐づいて生物多様性を考えるに際してデータが必要になるので、その収集のためにBiomeを使っていただく、というパターンが多いですね。

「生物のデータ化」が大きなマーケットを創る

―― 近年、生物多様性への関心が高まっています。その理由についてはどのように考えていますか?

藤木(バイオーム):
 理由は複雑ですが、最大の要因は投資環境の変化ではないでしょうか。リーマンショックでは、短期指標ばかり見ていると、実は長期ではリスクが高く、結果的にパフォーマンスが低くなってしまうことが判明しました。そのため、長期リスクにしっかりと対応できている会社に出資した方が、長い目で見てパフォーマンスがいいという流れに変わっているように思います。その頃から「ESG」「サステナブル」「SDGs」といった言葉も広まりましたよね。

 では長期リスクとは何か。様々あると思いますが、気候変動や生物多様性といった環境問題が大きな割合を占めるのは間違いありません。つまり、気候変動や生物多様性にちゃんと対応できている会社に投資することが、長期ではリスクが低く、パフォーマンスが高くなる、というわけです。

藤木(バイオーム):
 気候変動領域ではカーボンクレジット制度ができたように、ルールメイキングが上手くいきました。生物多様性でも同様に、ルールメイキングする動きが最近になって活発化しています。COP15(第15回生物多様性条約締約国会議)で国際目標が定まり、TNFDの仕組みも作られ、カーボンでできた大きなマーケットが生物多様性でもできるのではないかと期待されています。日本は気候変動領域の際は動きが遅れたように思いますが、生物多様性領域ではスピード感をもって動けていますね。

―― そんな中、なぜバイオームは生物のデータベースを作っているのでしょうか。

藤木(バイオーム):
 僕自身は本当は、生物多様性保全をやりたいだけの人間なんです。ただビジネスにするからには、生物多様性保全と経済を結び付けることが大事だと考えています。そのために必要なのがデータ・デジタル化。というのも、データ・デジタル化は、巨大マーケットを生み出してきた歴史があるからです。

 Googleは世界のデータ化そのものですし、Amazonは商品をデジタル化した。Facebookは人間関係を、Xは人間の思想をデジタル化して巨大マーケットを創りました。Amazonに関連するスタートアップがたくさんあるように、それらに紐づく産業も数え切れないくらい登場しています。このように、デジタル化は大きなマーケットを創造すると、僕は考えているんです。

 一方で自然環境のデジタル化は、まだほとんど達成できていません。それで僕は「自然環境のGoogleになる」と宣言して起業しました。生物多様性に関するデータを集めて、デジタル化を進め、それをみんなが使えるようにしていくプラットフォームを構築し、最終的に大きなマーケットを生み出していきたいと考えています。

藤木(バイオーム):
 では具体的に、どうやってデータを集めるのか。方法は色々あります。後述するNTTとの取り組みのように衛星画像を使うアプローチもあれば、最近だと川の水から取れる生物のDNAの破片を遺伝子解析して水辺の生物を調べる環境DNAという技術もある。ドローンやLiDAR、バイオロギングでもいいでしょう。

 ところで、僕は元々衛星画像研究者でした。衛星画像の解釈は広域評価には有効ですが、結局「現地の生データ」がないと解釈できないことも多いんです。他の技術でも似たような現象は少なくありません。つまり「ここにこの生物が生息しています」という生物に関する現地の生データが最も価値のあるデータなんです。

 とはいえ、現地の生データは継続的に集めないとモニタリングできません。でもそれを自社でやろうと思ったら莫大なリソースが必要になってしまう。そこでバイオームは、市民科学の力を使うことにしました。つまり、現地にいるみんなでデータを集める仕組みを作ることにしたんです。その仕組みをもって開発されたのがBiomeというわけですね。

 でも、単に「生物の記録をしてください」と言っても使われるわけがありません。そこでアプリには、つい使いたくなるような楽しい要素を取り入れることにしました。結果的に、2025年4月時点で約112万ダウンロードを達成。かなりの人が国内で使ってくれています。今では一日あたり数千〜数万件のデータが登録されていて、人海戦術がなんとか形になってきたところです。

田口(NDV):
 生物がどんどん絶滅しているというのは悲しいことです。そういった状況にある自然資本を何とかするために起業したというのは、素晴らしいですよね。

田口 知宏|TAGUCHI Tomohiro 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment & Business Development Manager
田口 知宏|TAGUCHI Tomohiro
株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ Investment & Business Development Manager

NTTコミュニケーションズ入社後、2018年4月にNTTドコモベンチャーズへ参画。スタートアップへの投資・協業開発・投資戦略策定を担う。出資先スタートアップとNTTグループのJV設立(資本金92億円)、新プロダクト創出(導入3万社超)を実現。

田口(NDV):
 一方でデータをビジネスにするのは実は難しく、データは集まるもののそこから前に進めないというケースも少なくありません。その点バイオームは、企業や自治体のニーズを丁寧に捉えてマネタイズできており、素晴らしいですね。

NTT5社と共創。衛生技術を使って植生や生物を広域的に推定

━━ 2025年、NDVはバイオームに出資しました。出資の経緯を教えてください。

田口(NDV):
 まず、NTT持株、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェア、NTTデータ、NTTドコモの5社は、NTTグループが保有する衛星画像データ解析技術などのアセットと、バイオームが提供する850万件超のリアルタイム生物データベース「BiomeDB」を組み合わせ、リモートセンシングによって植生や生物を広域的に推定する技術開発に共同で取り組むことを決定しました。

藤木(バイオーム):
 具体的には、衛星画像データ、生物情報を含むバイオームのデータ、自治体が保有する植生や生物に関するフィールドデータなども活用し、高頻度かつ広域的、また国際的な議論に対応した粒度で、特定地域の植生や生物の種類・分布の推定を行っていきます。

田口(NDV):
 この取り組みは、生物多様性のモニタリングを支援するため、広範かつ継続的に植生や生物に関する関連データを収集・分析する手法を確立し、ネイチャーポジティブな社会の実現への貢献を目的としたものです。NDVはこの共創をより強固なものとするため、バイオームへ出資しています。

藤木(バイオーム):
 ご承知の通り、現在、地球規模で生物多様性の喪失が進行してしまっています。日本でも「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が策定されるなど、企業、行政、市民といった多様な主体によるネイチャーポジティブな経済の実現に向けた取り組みが求められるようになってきました。その実現にあたって企業はTNFDなどへの対応が求められており、自然資本の現状を把握・評価し、目標達成に向けた継続的なモニタリングや保全活動が必要とされています。

 しかしながら、現状の把握やモニタリングをするためには、オープンデータだけでは更新頻度や精度に限界がある。また、現地での調査を継続的に行う必要もあります。こういった課題を解決する一助として、今回のNTTグループとの取り組みをしていこうと決めた、というわけです。

田口(NDV):
 NTTコミュニケーションズは元々、カーボンニュートラルをはじめサーキュラーエコノミーなどGX・SX関連のビジネスに取り組んでいて、その次にはネイチャーポジティブ、つまり自然資本への対応も、と考えていました。

 またNTTグループ全体としても、ネイチャーポジティブには関心を抱いていましたし、AIやIoT、衛星画像ビジネスにも取り組んでいます。そのため生物多様性をビジネスにする素地はあると前から考えていました。そこで国内の重要プレイヤーであるバイオームへ出資し、協業することにしたんです。

―― なぜNTTグループが、ネイチャーポジティブに感心を寄せているのでしょうか。

田口(NDV):
 ビジネス的な観点で、大きく2つの理由があります。

 まず、NTTデータは衛星画像の解析や3次元データの作成をコアとしたビジネスにこれまで取り組んできました。植生の解析に加え、バイオームと協業して現地の生物情報を加えられれば、その付加価値を上げられるはずです。

 また今回のバイオームとの取り組みは生物のモニタリングに関するものです。モニタリングは継続的に実施しなければなりませんし、方法は常にアップデートする必要があります。その際にAIやIoTを使うとなれば、NTT的には新たなビジネスの種になる、というわけですね。

田口(NDV):
 生物多様性にはCSR的な観点でも関心を寄せています。というのもNTTは、国内の1%近くもの電力をグループだけで使用しているんです。そういった背景もあって、地球環境保全に関心を抱くことは当然とも言えます。

 とはいえそういった背景は脇に置いても、生物多様性を含めた地球保全には、グループとしてもっと真剣に取り組まなければなりません。そういった考えが今回の取り組みを実現してくれました。

世界に進出し、生物多様性保全をグローバルのマーケットに

―― ちなみに、今回のNTTとの取り組みのような、他企業と連携をしている例はあるのでしょうか。

藤木(バイオーム):
 協業的な動きはいくつかあります。ただ小さな共同研究や共同開発が多く、ここまで規模が大きいものは初めてですね。今回の取り組みはNTT側からお声がけいただき、そんなに大掛かりにやるのかと驚きました。

―― バイオームとしては今回の共創をどのように捉えていますか?

藤木(バイオーム):
 繰り返しになりますが、バイオームは生物に関する現地の生データをたくさん保有している会社です。それを衛星や自動撮影カメラ、画像AIなどと組み合わせられればデータを多方面から解釈できるようになるし、時空間的な広さも担保できるようになります。それらに必要なアセットを保有しているのがNTTグループです。この点はバイオームにとって非常に魅力的でした。両社の相性は非常にいいと感じています。

 また正直に言うと、時流もちょうどよかったんです。現在、国際的な組織がこぞってネイチャーポジティブ系のルールメイキングをしていて、「ステイトオブネイチャー」という自然状態を評価する指標をどんどん発表しています。それがことごとく衛星画像を使うものだったり、広域データが必要になるものだったりするんです。

 これに対応するという意味でも、やはりNTTグループのアセットは魅力的でした。両社がタッグを組めば、生物多様性に関する世界一のサービスの開発も夢ではありません。僕自身は世界で通用する国際指標に対して「日本が技術的に最もリードしているね」と言われる環境を作れると思っています。

―― 衛星画像を使う指標とは、例えばどういったものでしょうか。

藤木(バイオーム):
 生態系の状態、端的に言ってしまうと植物の状態です。杉しか生えていない森と、様々な種がある森だったら、後者の方が良い、というものです。その方が色んな生物が生息できますからね。

―― 最後に、バイオームの今後の展望を教えてください。

藤木(バイオーム):
 起業してからこれまで、そしてこの先も、我々のやることは変わりません。最終的には生物多様性保全をマーケットにして、それを世界中に広げていきます。

 その実現に向け、まずは国内で上場したいと考えています。上場というのは、ちゃんとビジネスになる領域だということを世間に示す場ですよね。これまでビジネスにならないと言われていた生物多様性保全の会社が上場するのは、スゴいことだと思います。上場自体が社会的な意義となるはずです。

 同時に、世界展開も考えています。バイオームは既にインドネシアを筆頭に5カ国に進出していますが、早々に世界展開を実現し、世界中の生物の状態をデータベース化していくつもりです。それこそGoogleやAmazonがやってきたようなことを、生物という領域でグローバルにやっていきたいですね。

 もちろん、国内外に広げていくのはアプリだけではありません。目下は大企業の「何をやっていいかわからない」というTNFD開示周りの支援をしていきます。「何をやっていいかわからない」を「何かをやれた」までもっていくのは、バイオームのような基盤サービスをもっている会社の役割です。生物多様性データを使ったやり方を示し、評価して、フィードバックして...というPDCAを回せる体制づくりを、生物多様性という領域でやっていきたいと考えています。

田口(NDV):
 どんな会社も、生物多様性に関しては、バイオームについていけば安心ですね。

藤木(バイオーム):
 もう8年もやっていて、生物多様性についてのリーディングカンパニーだという自負で頑張っているので、その通りだと思っています!

―― 藤木さん、本日はありがとうございました。NDVは引き続き、バイオームを応援していきます。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)